はじめての衝突解決:話し合いから問題の本質と原因を明確にするステップ
初めてチームリーダーになり、メンバー間の意見の対立や不満に直面した際、「何が本当に問題なのか」「なぜそれが起きているのか」が分からず、混乱することもあるかもしれません。感情的なやり取りに巻き込まれそうになったり、どう収拾をつければ良いか見当がつかなかったりする場合、まずは問題の本質と原因を冷静に見極めることが重要です。
このステップは、衝突解決のプロセスにおいて、メンバーの意見や感情を丁寧に聞き取った後に行います。単に話を聞くだけでなく、そこから真の課題を掘り下げ、なぜそれが起きているのかという根本的な原因を探る作業です。ここを曖昧にしたまま解決策を考えると、表面的な対応にしかならず、同じような衝突が再発する可能性が高まります。
ここでは、チームリーダーが話し合いから問題の本質と原因を明確にするための具体的なステップと、その実践に役立つ考え方をご紹介します。
衝突の本質と原因を明確にするための基本ステップ
メンバーから話を聞き、情報が集まったら、次に以下のステップで問題の本質と原因を掘り下げていきます。
ステップ1:聞き取った情報を整理する
メンバーとの話し合いで得られた情報(事実、意見、感情)を、整理することから始めます。これは、感情的なやり取りに流されず、冷静に状況を把握するための基礎となります。
- 収集した情報をリストアップする: 誰が、いつ、どこで、何について、どのように話したのか、具体的な出来事や発言を書き出します。
- 事実、意見、感情を区別する:
- 事実: 客観的に確認できる出来事やデータ。「Aさんが〇〇の納期に間に合わなかった」「Bさんが△△について不満を述べた」など。
- 意見: 個人の考えや主張。「〇〇のやり方は非効率だ」「△△のルールは公平ではない」など。
- 感情: 個人の感じ方。「腹立たしい」「不安だ」「納得できない」など。 事実に基づいて考え、意見や感情は「なぜそのように考えるのか」「なぜそのように感じるのか」を掘り下げる出発点と捉えます。
ステップ2:問題を具体的に「定義」する
整理した情報をもとに、「何が問題なのか」を明確な言葉で定義します。ここでの問題定義は、解決策を検討するための出発点となります。
- 誰が、何について、どのような状況で困っているのかを特定する: 複数の問題が絡み合っている場合は、一つずつ切り分けて定義します。
- 具体的な言葉で表現する: 抽象的な表現(例:「コミュニケーション不足」)だけでなく、「特定の情報が〇〇さんから△△さんに共有されなかった」「XXの決定プロセスが不明確でメンバーが不安を感じている」のように具体的に定義します。
- 良い問題定義と悪い問題定義の例:
- NG例: 「AさんとBさんが仲が悪い」
- OK例: 「プロジェクトXのタスク分担について、AさんとBさんの間で認識のズレがあり、互いの協力体制に支障が出ている状況である」 NG例は個人の関係性に焦点を当てていますが、OK例は具体的な状況と、それが業務に与えている影響を明確にしています。
ステップ3:定義した問題の「原因」を探る
問題が定義できたら、次に「なぜその問題が起きているのか」という原因を深く掘り下げます。表面的な原因だけでなく、その背後にある構造的な要因も探ることが重要です。
- 考えられる原因を複数挙げる: 一つの問題に対して、原因は一つとは限りません。個人間の誤解、情報共有の仕組み、業務プロセス、役割分担の不明確さ、チームの文化など、様々な視点から原因を探ります。
- 「なぜなぜ分析」の考え方を活用する: 定義した問題に対して「なぜそれが起きているのか?」と繰り返し問いかけます。出てきた原因に対してさらに「なぜ?」と深掘りしていくことで、根本原因に近づけます(簡易的に2〜3回繰り返すだけでも効果があります)。
- 例: 問題「〇〇の納期遅延が発生した」
- なぜ? → 「担当の△△さんの作業が進まなかったから」
- なぜ? → 「△△さんが、必要な情報を持っていなかったから」
- なぜ? → 「その情報を担当のXXさんが共有するルールになっていなかったから」
- (根本原因の一例:「必要な情報共有のルールが確立されていない」)
- メンバーに追加で質問する: 原因を探る中で疑問点が出たり、さらに確認が必要な場合は、再度メンバーに質問する機会を設けます。「なぜそのように考えたのですか?」「他に原因として思い当たることはありますか?」など、メンバー自身の言葉で語ってもらうことが大切です。
ステップ4:問題と原因の認識をメンバーと共有する
リーダーが整理し、分析した問題定義と原因について、関係するメンバーと認識を共有します。これにより、メンバー間での共通認識を醸成し、解決策を検討する土台を作ります。
- リーダーの理解として提示する: 「皆さんの話を伺い、情報を整理した結果、今回の件については〇〇という問題が起きており、原因としては△△やXXが考えられると理解しました。私の認識は合っていますでしょうか?」といった形で提示します。
- 認識のズレを調整する: メンバーからのフィードバックを聞き、必要に応じて問題定義や原因分析を見直します。ここでメンバーの納得感が得られると、次の解決策検討への協力を得やすくなります。
- 「解決策」には言及しない: このステップでは、あくまで問題と原因の共通認識を作ることが目的です。この段階で解決策について議論を始めると、焦点がブレたり、感情的な対立が再燃したりする可能性があります。解決策は次のステップで話し合います。
具体的なシチュエーション例と対応
シチュエーション: チーム内で、新しい業務ツールの導入方法について、ベテランのCさんと若手のDさんの間で意見が対立している。Cさんは従来のやり方を主張し、Dさんは新しいツールの利便性を強調している。感情的な言い争いになりかけ、チームの雰囲気が悪化している。
- 情報整理:
- 事実: CさんとDさんがツールの導入方法について意見が対立している。チーム全体の進め方に関わる。
- 意見: Cさん「新しいツールは覚えるのが大変だし、従来のやり方で十分だ」。Dさん「新しいツールの方が効率的で、将来的には必須になる」。
- 感情: Cさん「変更への不安、新しいことを覚えることへの抵抗」。Dさん「新しい技術への期待、Cさんの意見へのいら立ち」。
- 問題定義:
- NG例: 「CさんとDさんが対立している」
- OK例: 「新しい業務ツールの導入方法について、世代や経験による意見の相違があり、チームとして最適な進め方を選択し合意形成するプロセスが確立されていない」
- 原因分析:
- なぜ対立が起きているのか? → ツール導入の目的やメリット・デメリットがチーム全体で共有・理解されていない。
- なぜ? → 新しいツール導入に関する情報提供が一方的だった。
- なぜ? → チームメンバーが変化に対する自身の不安や期待を率直に話し合える場がない。
- 考えられる原因:
- ツール導入の目的・メリット・デメリットの認識不足
- メンバー間の意見交換・意思決定プロセスの不明確さ
- 新しいやり方への変化に対する不安や抵抗感
- 認識共有:
- リーダー:「CさんとDさん、そして皆さんの話を伺って、今回のツールの件は、新しいツールを導入すること自体の是非というよりは、チームとして新しいやり方を取り入れる際の進め方について、目的やメリット、懸念点などを十分に話し合い、皆が納得できる方法を決めるプロセスが不足していたことが問題のようです。そして、その原因として、ツールの情報共有が十分でなかったことや、皆が率直に意見を言える場がなかったことが考えられます。私の理解は合っていますでしょうか?」
- メンバーからのフィードバックを受けて調整し、問題と原因についての共通認識を作る。
よくある落とし穴と対策
- 落とし穴:表面的な事象や感情に引きずられる
- 単なる意見の対立や感情的な不満を聞いて、「単に気が合わないだけか」と判断したり、感情的な意見に同調したりしてしまう。
- 対策: 事実、意見、感情を分けて整理することを徹底する。「それは具体的にどういう状況で起きたことですか?」「そのように感じるのはなぜですか?」など、感情の背景にある事実や考え方を深掘りする質問を意識する。
- 落とし穴:原因を特定急ぎすぎたり、個人に押し付けたりする
- メンバーの意見を聞いてすぐに「それは〇〇さんが悪い」「△△さんのやり方が間違っている」と決めつけてしまう。原因を個人の能力や性格の問題に還元してしまう。
- 対策: 原因は常に複数あり、個人的な要因だけでなく、組織のプロセス、ルール、情報共有、役割分担など、構造的な要因も大きいと考える視点を持つ。個人を責めるのではなく、「なぜその状況が生まれたのか」を構造的に探る。
- 落とし穴:問題定義や原因分析をリーダー一人で行う
- メンバーから話を聞いた後、リーダーだけで問題と原因を特定し、一方的にメンバーに伝える。
- 対策: 問題定義と原因分析は、最終的にメンバーと認識を共有することが重要です。分析の過程でメンバーに追加で確認したり、ある程度整理できた段階で一度メンバーに投げかけ、一緒に確認したりする機会を持つことで、メンバーの納得感や主体性を引き出すことに繋がります。
まとめ
チーム内の衝突において、問題の本質と原因を明確にすることは、効果的な解決策を見つけるための不可欠なステップです。初めてリーダーとして衝突に直面した際は、感情的にならず、今回ご紹介したステップに沿って、冷静に情報を整理し、問題と原因を深く掘り下げてみてください。
最初は難しく感じるかもしれませんが、このプロセスを丁寧に行うことが、表面的な対立を乗り越え、チームの課題を根本的に解決し、より強いチームを作るための確かな一歩となります。自信を持って、このステップに取り組んでみてください。