はじめての衝突解決:リーダーが陥りがちなNG行動と具体的な対策
初めてチームリーダーになられた皆様、日々の業務お疲れ様です。チームを率いる中で、メンバー間の意見の対立や不満といった「衝突」に直面することは避けられない場合が多くあります。
衝突解決はリーダーにとって重要な役割の一つですが、経験が浅いとどのように対応すれば良いか分からず、不安を感じることもあるでしょう。特に、「感情的にならず公平に解決する自信がない」という方もいらっしゃるかもしれません。
衝突解決は、いくつかの基本ステップを踏むことで、冷静かつ建設的に進めることが可能です。しかし、その過程でリーダー自身が意図せず「NG行動」をとってしまうと、かえって問題をこじらせたり、チームからの信頼を失ったりするリスクがあります。
この記事では、初めて衝突解決に取り組むリーダーが陥りがちな代表的なNG行動を取り上げ、それぞれの具体的な対策や、代わりに取るべき「OK行動」について詳しく解説します。よくある失敗パターンを事前に知っておくことで、自信を持って衝突解決に臨む一助となれば幸いです。
なぜリーダーは衝突解決でつまずきやすいのか
チーム内の衝突は、個々の価値観、立場、目標の違いなど、様々な要因から発生します。リーダーが衝突解決を難しく感じるのは、主に以下の理由が考えられます。
- 経験不足: 衝突解決の経験がほとんどないため、どのように進めて良いかの具体的なイメージが掴めない。
- 感情への対応: 自分自身の感情も揺さぶられやすく、また、感情的になっているメンバーへの対応に戸惑う。
- 公平性の維持: 全てのメンバーに対して公平であるべきという意識から、どう振る舞うべきか判断に迷う。
- 関係性の配慮: メンバー間の既存の関係性や、今後の関係性に配慮しすぎるあまり、問題解決が曖昧になる。
このような背景から、善意であっても不適切な対応をとってしまい、「NG行動」に繋がることがあります。しかし、これは経験を積むことで改善できる部分です。まずは、どのような行動がNGなのかを知ることから始めましょう。
リーダーが陥りがちなNG行動とその具体的な対策
ここでは、衝突解決の様々な段階でリーダーが陥りがちなNG行動と、それに対する具体的な対策、つまり「OK行動」をご紹介します。
NG行動1: 安易な仲裁や一方的な結論の押し付け
意見が対立している状況を見て、早くその場を収めようと、どちらか一方の肩を持ったり、ろくに話を聞かずに自分の考えた結論を押し付けたりする行動です。
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なぜNGなのか:
- 問題の根本的な原因が解決されないままになる。
- 結論を押し付けられた側、あるいは意見を聞いてもらえなかった側の不満が蓄積する。
- リーダーへの不信感が生まれ、今後の協力を得られにくくなる。
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OK行動(対策): 衝突解決のプロセスを、全員が納得できる解決策を見つけるための「話し合い」と捉え、そのプロセスを重視します。
- まずは全員の意見を傾聴する: 安易な判断をせず、まずは対立している双方、そして必要であれば他のメンバーからも、それぞれの主張や感情、事実について丁寧に話を聞きます。
- 中立的な立場を明確にする: 「私は皆さんの意見を公平に聞き、皆でより良い解決策を見つけるお手伝いをします」という姿勢を伝えます。
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結論を急がない: 短時間で解決しようとせず、必要な時間をかけて対話を進めます。
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具体的な声かけ例:
- 「〇〇さん、△△さんの意見について、今どう感じていますか?」
- 「この件について、皆さんが考えていること、感じていることを順番に聞かせてもらえませんか?」
- 「すぐに結論を出す必要はありません。まずは、それぞれが抱えている考えや思いを共有することから始めましょう。」
NG行動2: 感情的になる、あるいは感情から逃避する
メンバーの感情的な言動に引きずられてリーダー自身も感情的になったり、あるいは感情的なやり取りを避けるために問題から目を背けたり、形式的な対応に終始したりする行動です。
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なぜNGなのか:
- リーダーが感情的になると、冷静な判断ができなくなり、メンバーもさらに感情的になる悪循環に陥る。
- 問題から逃避すると、衝突が解決しないだけでなく、放置された問題がさらに大きくなる可能性がある。
- 感情的な側面を無視すると、問題の本質(不満や不安など)が見えなくなり、表面的な解決に終わる。
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OK行動(対策): リーダー自身の感情を適切にコントロールしつつ、メンバーの感情にも適切に対応します。
- リーダー自身の感情に気づく: 衝突の場で自分がどのような感情を抱いているか(怒り、不安、イライラなど)に客観的に気づきます。深呼吸をする、一時的に席を外すなど、クールダウンのためのテクニックを用意しておきます。
- メンバーの感情を受け止める傾聴: メンバーが感情的な場合は、その感情そのものを否定せず、「〜ということなのですね」「〜と感じているのですね」と、まずは共感的に聞き、受け止める姿勢を示します。話の腰を折らず、最後まで注意深く耳を傾けることが重要です。
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事実と感情を切り分ける: メンバーの話の中から、「実際に何が起こったのか(事実)」と「それに対してどう感じたのか(感情)」を意識して聞き分けます。リーダーが混乱しないためにも、この整理は重要です。
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具体的な声かけ例:
- (メンバーが感情的になっている時)「〜ということについて、あなたは今、大変腹立たしく感じているのですね。そのお気持ち、お聞かせいただけますか。」
- (事実確認として)「少し整理させてください。つまり、〇〇さんが△△の資料を期日までに提出しなかった、という事実があり、それによってあなたは納期に間に合うか不安を感じている、ということでしょうか。」
NG行動3: 問題の本質を見誤る(表面的な意見対立だけを見る)
表面的な対立(例:「A案が良い」「いやB案が良い」)だけを見てしまい、その背景にある本当の課題やメンバーのニーズ、価値観の違いなどに気づかないまま解決を図ろうとする行動です。
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なぜNGなのか:
- 根本原因が解決されないため、同じ、あるいは似たような衝突が再発する可能性が高い。
- メンバーが抱える深い不満や不安が解消されない。
- 表層的な解決策は、往々にして効果が限定的である。
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OK行動(対策): 表面的な対立の奥にある、問題の真の原因やメンバーの本当の思いを探求します。
- 「なぜ?」を繰り返す: 表面的な意見や主張に対し、「なぜそう考えるのですか?」「なぜそれが重要だと感じるのですか?」と深掘りする質問を重ねます。
- 目的や価値観を確認する: 対立している意見の「先」にある、本来チームとして目指している目標や、個々が大切にしている価値観について語ってもらいます。対立は、実は共通の目的に向かう手段の違いだった、ということも多くあります。
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異なる視点を促す: 「もしあなたが〇〇さんの立場だったら、この状況をどう感じますか?」といった問いかけを通じて、お互いの視点を理解することを促します。
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具体的な声かけ例:
- 「〇〇さんがA案を強く推されるのは、どのような理由からですか?A案のどういった点に価値を感じていますか?」
- 「△△さんがB案の方が良いとお考えなのは、具体的にどのような課題が解決できるからでしょうか?」
- 「このプロジェクトで私たちが最終的に達成したいことは何でしたっけ?一度、その原点に立ち返って考えてみませんか。」
- 「もし、相手の立場になってみるとしたら、この状況はどう見えますか?」
NG行動4: 特定のメンバーに肩入れする(公平性を欠く)
個人的な感情や過去の経験、特定のメンバーとの関係性などから、無意識のうちにどちらか一方のメンバーの味方をしてしまったり、片方の意見だけを重視したりする行動です。
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なぜNGなのか:
- 肩入れされなかったメンバーからの信頼を完全に失う。
- チーム内に不公平感が蔓延し、健全な意見交換が困難になる。
- 問題解決のプロセスが歪み、正しい判断ができなくなる。
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OK行動(対策): 常に「チーム全体にとって何が最善か」「全てのメンバーにとって公平なプロセスか」を意識し、中立性を保ちます。
- 私情を挟まない意識: 衝突解決の場では、個人的な好き嫌いや過去の出来事にとらわれず、あくまで目の前の「問題」に焦点を当てるという強い意識を持ちます。
- 全員に平等な発言機会を与える: 特定のメンバーばかりに話させたり、逆に発言を遮ったりせず、参加者全員に話す時間や機会を平等に提供します。
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共通の目標に焦点を当てる: 対立を乗り越えた先にある、チーム全体の目標や利益に焦点を当てることで、「誰が正しいか」ではなく「何が正しいか」「どうすればチームとして前に進めるか」という議論の方向へ導きます。
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具体的な声かけ例:
- 「それぞれの意見、ありがとうございます。どちらの意見にも一理ありますね。ここで大切なのは、誰かの意見が正しい・間違っている、ということではなく、この問題をチームとしてどう乗り越えるか、ということです。」
- 「この課題を解決することで、最終的に私たちのチームは何を達成できるでしょうか?その共通の目標を改めて確認してみましょう。」
- 「皆さんの意見をすべて伺った上で、これから解決策を一緒に考えていきたいと思います。」
NG行動5: 解決策の実行・フォローアップを怠る
話し合いで一時的に意見が一致したり、解決策らしきものが出たりしても、それを誰が、いつまでに、どのように実行するのかを曖昧にしたり、実行されたかどうかの確認を怠ったりする行動です。
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なぜNGなのか:
- せっかくの話し合いが無駄になり、問題が結局解決しない。
- メンバーは「話し合っても何も変わらない」と感じ、次の衝突解決への協力意欲を失う。
- リーダーのマネジメント能力に対する不信感が生まれる。
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OK行動(対策): 話し合いで出た解決策を、具体的な行動計画に落とし込み、実行とフォローアップを徹底します。
- 行動計画の明確化: 解決策が決まったら、「誰が(担当者)」「何を(具体的な行動)」「いつまでに(期日)」「どのような状態になれば完了か(完了基準)」を明確に定義し、関係者全員で共有・合意します。
- 役割分担と責任の確認: 各メンバーの役割と責任を明確にし、本人の納得を得ます。
- 進捗の確認とサポート: 定期的に進捗を確認し、問題が発生していないか、必要なサポートはないかを確認します。もし計画通りに進んでいない場合は、その原因を共に考え、必要に応じて計画を修正します。
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解決の確認と成果の共有: 問題が解決されたかどうかを関係者間で確認し、解決に至った場合は、その成果やそこから学んだことをチーム全体に共有します。
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具体的な声かけ例:
- 「では、話し合いで決まったこの解決策を実行するために、具体的に誰が何をしましょうか?」
- 「〇〇さんには△△を、今週金曜日までに担当していただく、ということでよろしいでしょうか?」
- 「来週のミーティングで、この件の進捗状況を確認する時間を設けたいと思います。皆さん、実行をお願いします。」
- 「皆さんのおかげで、この問題が無事に解決しました。協力いただいた皆さんに感謝します。」
これらの失敗を避けるための普段からの心がけ
衝突解決の場だけで特別なスキルを発揮しようとするのではなく、日頃からチームとの良好な関係を築き、特定のNG行動を避けるための土壌を作っておくことも重要です。
- オープンなコミュニケーションを奨励する: メンバーが意見や懸念を気軽に話せる雰囲気を作ります。日頃から小さな不満や意見の相違にも耳を傾けることで、大きな衝突を未然に防ぐことにも繋がります。
- メンバー間の相互理解を促す: チームビルディング活動や、お互いの強み・弱みを共有する機会などを通じて、メンバーがお互いを理解し尊重し合える関係性を育みます。
- リーダー自身の感情マネジメント能力を高める: ストレス解消法を見つけたり、信頼できる人に相談したりするなど、自分自身の感情を健康的に管理するスキルを磨きます。
- 完璧を目指さない: 初めての衝突解決で全てがうまくいくとは限りません。失敗から学び、次に活かすという姿勢が大切です。経験を積むことで、必ずよりスムーズに対応できるようになります。
まとめ
初めてチームリーダーとして衝突解決に臨む際には、不安を感じるのは自然なことです。しかし、今回ご紹介したような「リーダーが陥りがちなNG行動」を事前に知っておくことで、多くの場合、問題を悪化させるリスクを減らし、より建設的な解決へと導くことが可能になります。
重要なのは、安易な結論を押し付けず、感情的にならず、問題の本質を見極め、公平性を保ち、そして解決策の実行を最後までフォローすることです。これらの基本的なポイントを押さえ、失敗を恐れずに一歩ずつ実践してみてください。
経験を重ねるごとに、きっとあなた自身の「衝突解決リーダーシップ」が磨かれていくはずです。この情報が、あなたのチームマネジメントの一助となれば幸いです。