はじめての衝突解決:決めた解決策が実行されない?実行可能性と納得感を高めるステップ
チーム内の衝突解決に向け、話し合いを重ねてようやく解決策に合意できたとしても、その解決策が実際に実行されず、「絵に描いた餅」になってしまうことは、リーダーにとって非常に残念な経験です。特に初めてチームリーダーになった方にとっては、「なぜ決まったことが進まないのか」と、もどかしさや無力感を感じるかもしれません。
しかし、これは珍しいことではありません。合意形成と解決策の実行の間には、いくつかの落とし穴が存在します。重要なのは、その原因を理解し、リーダーとして「実行可能性」と「メンバーの納得感」を高めるための具体的なステップを踏むことです。
この記事では、せっかく決めた解決策をチームで確実に実行に移すために、リーダーが確認し、働きかけるべき基本ステップを解説します。
なぜ、合意したはずの解決策が実行されないのか?
チームで解決策に合意したにもかかわらず、実行が進まない背景には、いくつかの要因が考えられます。
- 解決策の具体性が低い: 誰が、何を、いつまでにやるのかが曖昧なまま終わってしまった。
- 実行方法の不明確さ: どのように実行すれば良いのか、必要なリソースや手順が共有されていない。
- メンバーの納得感不足: 表面上は合意したが、その解決策の必要性や、自分自身が関わる意味を十分に理解・納得できていない。
- 実行への不安や懸念: 「本当にこれでうまくいくのか」「失敗したらどうなるのか」といった実行に対する不安が解消されていない。
- リーダーのフォローアップ不足: 実行状況の確認や、途中で発生した問題へのサポートがない。
- 他の業務との優先順位: 解決策の実行よりも、他の日常業務が優先されてしまう。
これらの原因に対処するためには、合意形成後のフォローアップだけでなく、解決策を決定するプロセスそのものに、実行可能性と納得感を高める視点を組み込むことが不可欠です。
実行可能性と納得感を高めるための基本ステップ
ここでは、チームで決定した解決策を「実行される解決策」にするためのリーダーの具体的なステップを解説します。
ステップ1:解決策の「現場感」と「実現可能性」を徹底的に確認する
解決策を検討・決定する際には、理論上正しいかだけでなく、「実際に現場で働くメンバーが実行できるか」という視点が非常に重要です。
- 目的: 決定された解決策が、チームメンバーのスキル、時間、リソース、現在の業務負荷などを考慮しても、現実的に実行可能であることを確認する。
- 具体的な行動:
- 解決策の各項目について、「これを行う上で、現実的に難しい点や懸念点はありますか?」とメンバーに直接問いかけます。
- 特定の担当者が決まっている場合は、その担当者から具体的な実行プロセスや必要な準備についてヒアリングします。
- 「このやり方だと、他の業務にどのような影響が出そうか」「想定外の事態が起こるとすれば、どのようなことが考えられるか」といった、実行上のリスクについてもメンバーと共に検討します。
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リーダーの注意点: メンバーが「リーダーが決めたことだから」と遠慮しないよう、安心して懸念を表明できる雰囲気を作ります。実現可能性についてリーダーが一方的に判断せず、必ず実行するメンバーの意見を最優先します。
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会話例(良い例):
- リーダー:「この解決策について、〇〇さん、△△さんが主導で進めていただくことになります。この内容を実際に実行していく上で、懸念点や『ここは難しそうだな』と感じる点はありますか?」
- メンバーA:「えっと、△△の作業は普段あまりやらないので、少し時間がかかるかもしれません。もし可能であれば、最初の1週間だけサポート体制があると助かります。」
- リーダー:「ありがとうございます。〇〇さんのスキルアップにも繋がる良い機会ですが、実行を確実にするために初期サポートは検討しましょう。他に何かありますか?」
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会話例(NG例):
- リーダー:「よし、この解決策で決定です。これは皆さんならできますね。進めてください。」(メンバーの懸念を聞き漏らす)
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ステップ2:解決策を具体的な「アクションプラン」に落とし込む
「〇〇を改善する」「コミュニケーションを円滑にする」といった抽象的な解決策だけでは、メンバーは何から手をつけて良いか分かりません。具体的な行動レベルまでブレークダウンする必要があります。
- 目的: 解決策を「誰が、何を、いつまでに、どのように行うか」という明確な行動計画にする。
- 具体的な行動:
- 決定した解決策に基づき、「誰が」「具体的に何をするのか」「それをいつまでに完了させるのか」をリストアップします。
- 必要であれば、「どのように行うか(具体的な手順や方法)」や「どこで情報共有するか」なども明確にします。
- このアクションプランをメンバー全体で共有し、認識のずれがないかを確認します。
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リーダーの注意点: アクションプランはリーダーが一方的に作成するのではなく、解決策に関わるメンバーと協力して作成します。各アクションの担当と期限を明確にし、責任の所在をはっきりさせます。
- 例(具体的なアクションプラン):
- 解決策の例:「日々の情報共有を改善する」
- アクションプラン例:
- 担当:〇〇さん / アクション内容:毎朝のミーティングで前日の主要トピックを3分で共有する / 期限:明日から開始
- 担当:△△さん / アクション内容:プロジェクトAに関する決定事項を週に一度、チャットツールでまとめて投稿する / 期限:毎週月曜の午前中
- 例(具体的なアクションプラン):
ステップ3:解決策の「意味合い」と「期待される効果」を丁寧に説明する
メンバーが解決策の「Why(なぜこれが必要なのか)」を理解し、納得しているかどうかは、実行へのモチベーションに大きく影響します。
- 目的: 解決策がチームや個人の業務にどのような良い影響をもたらすのか、この取り組みがなぜ重要なのかを明確に伝え、メンバーの納得感と主体性を引き出す。
- 具体的な行動:
- 解決策を共有する際に、単に「これをやりましょう」と伝えるだけでなく、「この解決策は、以前課題となっていた〇〇を解決するために最も効果的だと考えられます」「これにより、皆さんの△△という負担が軽減されることを期待しています」といった背景や目的、期待効果を丁寧に説明します。
- メンバーから「なぜこれをする必要があるのか」という質問が出た場合は、面倒がらずに真摯に回答し、理解を促します。
- 解決策が個々のメンバーの目標や成長にどう繋がる可能性があるかについても言及できると効果的です。
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リーダーの注意点: リーダー自身がその解決策の意義を深く理解していることが前提です。一方的な説明ではなく、メンバーの疑問や意見にも耳を傾け、双方向のコミュニケーションを心がけます。
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会話例(良い例):
- リーダー:「皆さん、この新しい報告フォーマットの導入についてですが、これは単に作業を増やすためではありません。以前、情報共有の遅れで連携ミスがあったかと思いますが、このフォーマットで共有すべき情報が明確になり、皆さんの確認作業がスムーズになることを目指しています。結果として、手戻りが減り、皆さんの負担軽減にも繋がるはずです。」
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会話例(NG例):
- リーダー:「はい、決まりましたので、明日から新しい報告フォーマットを使ってください。指示通りにお願いします。」(目的や背景が不明確)
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ステップ4:実行中の障害を予測し、事前に話し合っておく
解決策を実行に移す際には、必ずと言って良いほど予期せぬ問題や障害が発生します。事前に起こりうるリスクを想定し、話し合っておくことで、実行中の手詰まりや諦めを防ぐことができます。
- 目的: 実行プロセスで発生しうる障害を事前に洗い出し、その際の対応策や相談先を明確にしておくことで、メンバーが安心して実行に取り組めるようにする。
- 具体的な行動:
- アクションプランを見ながら、「もし〇〇が起こったらどうしようか」「△△さんの協力を得るのが難しそうなら、どういう代替策が考えられるか」といった仮説を立て、メンバーと共に解決策を実行する上での「懸念リスト」を作成します。
- リストアップした懸念点に対して、可能な範囲で事前の対応策や、問題発生時の連絡・相談フローを決めておきます。
- 「何か困ったことがあれば、いつでも私か〇〇さんに相談してください」といった、相談しやすい雰囲気と言葉かけを行います。
- リーダーの注意点: ネガティブな側面ばかりに焦点を当てすぎず、あくまで実行を支援するための建設的な話し合いとします。全ての懸念に対応策を決める必要はありませんが、「問題が起きたらどうすればいいか」という安心感を与えることが重要です。
ステップ5:実行後のフォローアップ体制を整える
解決策は決めて終わりではなく、実行されて初めて意味を持ちます。リーダーは実行状況を適宜確認し、必要なサポートを行う責任があります。
- 目的: 解決策の実行が計画通りに進んでいるかを確認し、メンバーが直面している問題や課題に対してタイムリーなサポートや軌道修正を行う。
- 具体的な行動:
- アクションプランの進捗状況を定期的に(例えば週次ミーティングで数分使うなど)確認する場を設けます。
- 進捗が遅れている、あるいは計画通りに進んでいない場合は、その原因をメンバーと共に探り、解決策を見直したり、必要なサポートを提供したりします。
- 実行してみて分かった課題や、当初想定していなかった状況についても、メンバーからフィードバックを収集する機会を作ります。
- うまくいっている点については、具体的に評価し、メンバーの努力を認め、称賛します。
- リーダーの注意点: 進捗確認はメンバーを「管理・監視」するためではなく、「サポート・支援」するためのものであることを明確に伝えます。遅れているメンバーを一方的に責めるのではなく、何が課題なのかを共に考え、解決策を見つける姿勢を示します。
よくある落とし穴と対策
- 落とし穴1:解決策の決定プロセスに一部のメンバーしか関わっていない
- 理由: 主要なメンバーだけで決めてしまい、実際に実行するメンバーの意見が反映されないため、納得感や当事者意識が低くなる。
- 対策: 解決策の検討・決定プロセスには、可能な限り関係者全員に参加してもらうか、参加できない場合でも事前に意見を聞く機会を設ける。特に、解決策を実行する中心となるメンバーの意見は必ず吸い上げる。
- 落とし穴2:解決策を実行するための「環境」が整っていない
- 理由: 新しいツールが必要、特定の情報にアクセスできない、他の部署との連携がうまくいかないなど、実行に必要な物理的・環境的な準備が不足している。
- 対策: アクションプラン作成時に必要なリソースや外部連携の有無を確認し、リーダーが責任を持ってその準備を進める。メンバーが「やりたくてもできない」状況をなくす。
- 落とし穴3:実行の成果や目的が途中で見えなくなる
- 理由: 目標が曖昧になったり、実行がルーチン化してしまい、何のためにこの活動をしているのかが分からなくなる。
- 対策: 定期的に解決策の目的や、実行によって得られた成果(小さなものでも)をメンバー全体にリマインドする。解決策の実行状況だけでなく、それがチームや個人の業務にどのような良い影響を与えているかについても共有する。
まとめ
チーム内の衝突解決で導き出した解決策を確実に実行に移すことは、リーダーにとって重要な役割の一つです。合意形成したからといって安心せず、その後の「実行可能性」と「メンバーの「納得感」を高めるための働きかけが、解決策を絵に描いた餅にせず、実際の成果に繋げる鍵となります。
今回解説したステップ(現場感・実現可能性の確認、アクションプランへの落とし込み、目的・効果の丁寧な説明、障害予測と対策、フォローアップ)は、特別なスキルを必要とするものではありません。どれも、チームメンバーに寄り添い、彼らが安心して主体的に行動できるよう、リーダーが意識して行うべき基本的な関わりです。
初めてリーダーになったばかりで不安もあるかもしれませんが、これらのステップを一つずつ丁寧に進めることで、チームの実行力は確実に高まります。そして、それはチームの成長だけでなく、リーダーであるあなた自身の信頼と成長にも繋がるはずです。まずは目の前の小さな解決策から、これらのステップを実践してみてください。応援しています。