はじめての衝突解決:話し合いを始める前に確認すべき「解決の目的」設定ステップ
はじめてチームリーダーになられた皆様は、チーム内の意見対立や不満に直面し、どのように対応すれば良いか不安を感じているかもしれません。特に衝突解決は、感情が絡みやすく、公平な対応が難しいと感じる場面もあるかと存じます。
衝突解決において、しばしば見落とされがちながら、その後のプロセス全体の成否を左右するほど重要な最初のステップがあります。それは、「何のためにこの衝突を解決するのか」、つまり解決の目的を明確に設定することです。
目的が曖昧なまま話し合いを始めてしまうと、議論が脱線したり、表面的な解決にとどまったり、場合によっては新たな対立を生んだりするリスクが高まります。反対に、明確な目的があれば、話し合いの焦点を絞り、建設的な方向へ導きやすくなります。
この記事では、はじめて衝突解決に臨むリーダーのために、話し合いを始める前に必ず確認すべき「解決の目的」を設定するための基本的なステップを解説します。
なぜ衝突解決の目的設定が重要なのか
衝突解決の目的を明確にすることは、羅針盤を持つことに似ています。どこに向かうべきか分からなければ、目的地にたどり着くことは困難です。衝突解決の場においても、目指すべきゴールが不明確であれば、以下のような問題が発生しやすくなります。
- 議論の長期化・不毛化: 何を解決したいのか、どのような状態を目指すのかが不明確なため、話し合いが堂々巡りになりやすい。
- 感情的な対立の激化: 目的が見えないことで、参加者が不安を感じ、感情的な主張に終始してしまう可能性がある。
- 表面的な解決: 問題の根本原因に触れず、一時しのぎの解決策で終わってしまい、再発のリスクを残す。
- 参加者のモチベーション低下: 何のために話し合っているのか分からず、時間だけが過ぎることに不満を感じ、協力的な姿勢を失う。
明確な目的を設定することで、これらの問題を回避し、より効率的かつ効果的に衝突を解決に導くための土台を築くことができます。
衝突解決の目的を設定する基本ステップ
それでは、どのようにして解決の目的を設定すれば良いのでしょうか。以下のステップで考えてみましょう。
ステップ1:衝突の「事象」と「本質」を整理する
まず、今起きている衝突の表面的な「事象」を具体的に書き出します。 例:「AさんとBさんが会議でいつも意見が対立し、話し合いが進まない」「タスク分担についてCさんから不満が出ている」など。
次に、その事象の背後にある「本質的な問題」は何なのかを考えます。これは、現時点での推測で構いません。メンバーから事前に個別に話を聞くなど、情報収集を行うことで、より正確に捉えることができます。(メンバーへの聞き取りについては、別の記事で詳しく解説します。)
- 考えられる本質的な問題の例:
- 特定のタスクに対する認識の違い
- 役割分担や責任範囲の曖昧さ
- 情報共有の不足
- 過去の出来事に基づく不信感
- 価値観や仕事の進め方の違い
- コミュニケーションの方法に対する不満
事象だけにとらわれず、その根っこにあるであろう問題に目を向けることが、目的設定の第一歩です。
ステップ2:解決によって目指す「理想的な状態」を具体的にイメージする
本質的な問題を踏まえ、「もしこの問題が解決したら、チームや関係者はどのような状態になっているだろうか?」という理想的な状態を具体的にイメージします。
- 理想的な状態をイメージする際の問いかけ例:
- この衝突が解決したら、チーム内のコミュニケーションはどう変わるか?
- 関係者(Aさん、Bさんなど)は、お互いに対してどのような感情や認識を持つようになっているか?
- 具体的な業務の進め方や役割分担はどうなっているか?
- 今後、同様の衝突が起きにくくなるために、何が確立されているか?
- チーム全体の雰囲気や生産性はどのように向上しているか?
できるだけ具体的に、五感で感じられるようなレベルでイメージすることが重要です。「雰囲気が良くなる」だけでなく、「〇〇について、AさんとBさんが△△という方法で合意形成できるようになっている」「情報共有のルールが明確になり、週に一度のミーティングで□□について話し合う時間を設けている」のように具体化します。
ステップ3:「解決の目的」を簡潔かつ明確な言葉で定義する
ステップ2でイメージした理想的な状態を踏まえ、この衝突解決の「目的」を、チーム全体で共有できる簡潔かつ明確な言葉で定義します。
目的は、以下の要素を含むと分かりやすくなります。
- 何を(解決対象の本質的な問題)
- どうする(解決の方向性や目指す変化)
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どのような状態になる(解決後の具体的なイメージ)
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目的定義の例(悪い例と良い例):
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悪い例(曖昧): 「AさんとBさんの仲を良くする」
- → 「仲が良い」の定義が曖昧で、具体的に何を目指せば良いか分からない。
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良い例(明確): 「AさんとBさんが、プロジェクトXにおけるタスク分担と進捗報告の方法について共通認識を持ち、建設的に協力できる状態になること」
- → 解決したい対象(タスク分担・進捗報告)、目指す状態(共通認識を持つ、協力できる)が明確。
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別の悪い例(表面的): 「Cさんの不満をなくす」
- → 不満の原因が何か不明確であり、根本解決に繋がりにくい。
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別の良い例(本質的): 「タスク分担ルールの曖昧さという問題に対し、全員が納得できる具体的なルールを合意し、今後の業務を円滑に進められる状態になること」
- → 問題の本質(ルール曖昧さ)、解決策の方向性(納得できるルール合意)、目指す状態(業務円滑化)が示されている。
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このように、抽象的な表現や表面的な事象にとどまらず、問題の本質に迫り、目指す具体的な状態を示す言葉で目的を定義することが、その後のプロセスを効果的に進める上で不可欠です。
ステップ4:設定した目的を関係者と共有する(必要に応じて)
設定した解決の目的は、話し合いの参加者となる関係者と事前に共有することを検討します。全員が同じ目的に向かっているという共通認識を持つことで、話し合い中の協調性が高まり、脱線を防ぐ効果が期待できます。
ただし、衝突の状況によっては、事前に目的を共有することでかえって反発を招く可能性もあります。その場合は、話し合いの冒頭でリーダーから目的を提示し、参加者の同意を得るという方法も考えられます。状況を判断し、最も適切と思われる方法を選択してください。
目的設定におけるリーダーのNG行動とその対策
はじめて目的設定を行う際に陥りがちなNG行動とその対策をご紹介します。
- NG行動1:目的が曖昧なまま、とりあえず話し合いを始める
- 対策: 話し合いの日程調整と同時に、上記のステップで必ず目的を定義する時間を設ける。目的設定が不十分だと感じたら、話し合いを始める前に情報収集や自己内省をさらに行う。
- NG行動2:リーダーが一方的に目的を決め、メンバーに押し付ける
- 対策: 目的はリーダーが主導して設定するものの、メンバーの意見や不満を事前に聞き取り、それらを考慮した目的とする。完全に納得させるのが難しい場合でも、「皆でより良く働くための話し合いである」という共通認識は持つよう働きかける。必要であれば、目的設定自体をメンバーと一緒に行う。
- NG行動3:問題の表面的な解決や、特定の個人の行動改善だけを目的とする
- 対策: ステップ1のように、必ず問題の「本質」に目を向ける。個人間の問題に見えても、組織の構造やルール、コミュニケーション文化に原因がないか多角的に検討する。目的は、特定の個人を責めることではなく、チーム全体としてより良い状態になることだと明確にする。
- NG行動4:実現不可能な高すぎる目的を設定する
- 対策: 理想的な状態はイメージしつつも、現実的にその話し合いで達成可能な範囲で目的を設定する。一度の話し合いで全てを解決しようとせず、段階的な解決を目指す場合は、その「最初のステップ」としての目的を明確にする。
まとめ
チーム内の衝突は、適切に対応することで、チームの絆を深め、共通理解を促進し、成長の機会に変えることができます。その成功は、話し合いを始める前の「解決の目的」をいかに明確に設定できるかに大きく左右されます。
はじめて衝突解決に臨む際は、不安を感じるかもしれませんが、まずは冷静に、この「目的設定」のステップに取り組んでみてください。なぜ衝突が起きているのか、そして解決によってどのような状態を目指したいのかを明確にすることで、その後の話し合いに自信を持って臨めるはずです。
明確な目的は、解決への道のりを照らす光となります。このステップを踏むことで、皆様がチームをより良い方向へ導く一歩を踏み出せることを願っております。