はじめての衝突解決:解決策を実行した後に起こる「新たな問題」への対応ステップ
衝突解決策の実行はゴールではない
チーム内の衝突に対して、話し合いを重ね、苦労して解決策を決定し、実行に移したとします。これで一件落着、と安心したいところですが、残念ながら、衝突解決のプロセスは解決策の実行がゴールではない場合も多くあります。
時には、決定した解決策を実行する過程で予期せぬ問題が発生したり、新たな意見の対立が生まれたりすることがあります。初めてチームリーダーになった方にとっては、「せっかく解決したと思ったのに、また問題が…」と戸惑いや落胆を感じやすい場面かもしれません。
しかし、このような「解決策実行後の新たな問題」への対応こそが、リーダーの腕の見せ所であり、チームをさらに強く成長させる機会にもなります。この記事では、解決策を実行した後に起こりうる新たな問題に対し、リーダーがどのように冷静に対応すべきか、具体的なステップで解説します。
なぜ解決策実行後に新たな問題が起こりうるのか
解決策実行後に新たな問題が生じるのには、いくつかの理由が考えられます。
- 想定外の変化: 解決策が検討された時点と、実行される時点では状況が変わっている可能性があります。メンバーの状況、外部環境などが変化し、解決策が現状に合わなくなることがあります。
- 全員の納得度: 話し合いで一旦合意が得られたとしても、全てのメンバーが完全に納得しているわけではないかもしれません。解決策の実行段階で、納得しきれていなかったメンバーからの不満が表面化することがあります。
- 実行プロセスの課題: 解決策自体は適切でも、その実行方法や担当、スケジュールなどに無理があったり、不明確な点があったりすると、実行段階で摩擦が生じます。
- コミュニケーション不足: 解決策の目的や期待される効果、実行方法などがメンバー間で十分に共有されていないと、誤解や不満の原因となります。
解決策実行後の「新たな問題」対応ステップ
解決策を実行した後に新たな問題の兆候が見られたら、以下のステップで冷静に対応を進めます。
ステップ1:早期の兆候に気づく(検知)
問題が大きくなる前に、小さなサインを見逃さないことが最も重要です。
- チームの雰囲気に変化はないか: メンバー間の会話が減った、特定のメンバーが孤立しているように見える、といった異変に注意を払います。
- 特定のメンバーの言動の変化: いつもより発言が少ない、不満げな様子が見られる、といった兆候がないか観察します。
- 非公式な情報に耳を傾ける: 休憩時間やランチタイムなどでの会話、チャットツールでのやり取り(業務に関わる範囲で)から、チームの状況を把握しようと努めます。
- 定期的なコミュニケーション: 1on1ミーティングや短いチームの立ち話など、日頃からメンバーとコミュニケーションを取る機会を設け、気軽に相談しやすい関係性を築いておくことが、早期発見につながります。
たとえ小さな不満や疑問でも、「何かおかしいな」と感じたら、それが新たな問題の芽である可能性を考慮し、注意深く見守る姿勢が大切です。
ステップ2:状況を冷静に把握・分析する(原因特定)
問題の兆候に気づいたら、感情的にならず、何が起きているのかを客観的に把握します。
- 事実情報の収集: 誰が、いつ、どのような状況で、具体的にどのような言動をとったのか、という「事実」を中心に情報を集めます。関係者や状況を知っているメンバーから話を聞く際は、感情論ではなく具体的な状況について尋ねます。
- 問題点の特定: 集めた情報をもとに、何が具体的に問題となっているのかを明確にします。「解決策のどの部分がうまくいっていないのか」「実行方法に無理があるのか」「別の要因があるのか」などを分析します。
- 関係者の感情とニーズの理解: 事実に加えて、その問題に対して関係者がどのように感じているのか、何を求めているのかを推測します。これは後の対話で重要になります。
- 原因の分析: なぜその問題が起こっているのか、根本的な原因を探ります。当初の解決策の設計ミスなのか、実行段階のミスなのか、メンバーの誤解なのか、外部要因なのかなど、可能性を考えます。
【NG行動】 * 「またか」と落胆し、対応を後回しにする: 問題は小さいうちに対処する方が容易です。 * 特定のメンバーを問題視する: 問題は個人ではなく、状況やプロセスにある可能性も高いです。冷静に全体像を把握することが重要です。
ステップ3:関係者と対話する(傾聴と情報収集)
問題の状況と原因についてある程度の仮説が立てられたら、関係者と直接対話します。目的は、正確な情報収集と、問題解決に向けた協力姿勢を促すことです。
- 個別または関係者を集めて対話の場を設ける: 状況に応じて、1対1でじっくり話すか、関係者を集めて話し合うかを選択します。感情的な対立が予想される場合は、まずは個別で話を聞く方が良いでしょう。
- 非難ではなく、状況改善への協力を求める姿勢を示す: 「あなたを責めているわけではなく、この状況をどうすれば良くできるか、一緒に考えたい」というスタンスで臨みます。
- 相手の話を遮らず、最後まで聞く(傾聴): 相手が話している間は、自分の意見を挟まず、しっかりと耳を傾けます。頷きや相槌を適度に挟み、聞いている姿勢を示します。
- 具体的な状況や感情について質問する: 「〜について、具体的にどのようなことが起こっていますか?」「その状況について、今どのように感じていますか?」「何か困っていることはありますか?」など、相手が話しやすいように具体的に質問します。
【会話例(良い例)】 リーダー:「〇〇さん、少しお話できますか。先日、〇〇の件で決めた解決策を実行していますが、少し進捗が滞っているように見受けられます。何か困っていることや、やりにくいと感じていることはありますか?」 メンバー:「実は、△△の部分が想定よりも時間がかかってしまっていて…」 リーダー:「なるほど、△△の部分ですね。具体的にどのような状況でしょうか?何か手伝えることはありますか?」
【会話例(悪い例) リーダー:「〇〇さん、あの解決策、全然進んでないみたいだけど、どうなってるの?ちゃんとやってよ。」 メンバー:「(委縮して)え、あ、はい…」
ステップ4:解決策の微調整または新たな対応策を検討する(柔軟な対応)
対話を通じて問題の状況や関係者のニーズを深く理解したら、当初の解決策をどうするかを検討します。
- 当初の解決策を固執しない: 最初に決めた解決策が常に最適とは限りません。状況が変わったり、実行段階で問題が見つかったりすれば、柔軟に変更を検討します。
- 関係者と共に考える: 可能であれば、問題に関わっているメンバーも交えて、「どうすればこの問題を解決できるか」「解決策をどう修正すればうまくいくか」を話し合います。
- 複数の選択肢を検討する: 解決策の修正案や新たな対応策をいくつか出し合います。それぞれのメリット・デメリットを検討し、実行可能性や関係者の納得度を考慮して選択します。
- 段階的な対応も視野に入れる: 一度に完璧な解決を目指すのではなく、まずは現状を改善するための小さな一歩として、段階的な対応策を講じることも有効です。
ステップ5:決定した対応策を実行し、経過をフォローアップする(実行と評価)
新たな対応策が決まったら、関係者と共有し、実行に移します。そして、その後の経過を注意深く見守ります。
- 決定事項の明確な共有: 誰が、何を、いつまでに行うのかを明確にし、関係者全員に共有します。
- 実行のサポート: メンバーが対応策を実行しやすいように、必要なサポート(情報提供、権限委譲、障害の除去など)を行います。
- 経過の観察と評価: 対応策が実行された後、状況がどのように変化したかを継続的に観察します。問題が解消に向かっているか、新たな問題は生じていないかなどを評価します。
- 必要に応じて再調整: 経過観察の結果、対応策が十分に効果を発揮していない場合は、再びステップ2に戻り、状況を再分析して対応策を見直します。
リーダーが陥りがちなNG行動と対策
解決策実行後の対応において、リーダーが避けるべきNG行動と、その対策をまとめます。
| NG行動 | 対策 | | :--------------------------------------- | :----------------------------------------------------------------------------------------------- | | 問題が小さいうちに見過ごしてしまう | 日頃からメンバーとコミュニケーションを取り、チームの小さな変化に気づけるようにアンテナを高く持つ。 | | 「せっかく決めたのに」と解決策に固執する | 解決策はあくまで手段。状況に合わせて柔軟に見直す姿勢を持つ。 | | 問題の原因を特定のメンバーに押し付ける | 公平な立場で、状況やプロセス全体から原因を分析する。 | | 解決策の実行を指示するだけで放置する | 実行状況を定期的に確認し、困っていることがないかメンバーに声かけを行う。 | | 問題を一人で抱え込んで悩む | 信頼できる同僚や上司に相談したり、専門家(HRなど)の助けを借りることも検討する。 |
まとめ:解決策実行後の対応もリーダーシップの一部
チームの衝突解決は、解決策を決めて実行したら終わり、ではありません。解決策を実行した後に生じる予期せぬ問題や新たな摩擦に、粘り強く、柔軟に対応することも、チームリーダーの重要な役割の一つです。
初めてリーダーになった方にとっては、こうした状況に直面すると「自分の解決策が間違っていたのか」「リーダー失格なのではないか」と感じてしまうかもしれません。しかし、問題が発生することは、チームや解決策に改善の余地があることを示しており、成長のための貴重な機会です。
問題から目を背けず、この記事でご紹介したステップを参考に、冷静に状況を把握し、関係者と対話し、柔軟に対応策を見直していくこと。このプロセスを通じて、チームからの信頼を得て、より強固なチームを築いていくことができるはずです。一歩ずつ、着実に進んでいきましょう。