はじめての衝突解決:合意した解決策の「実行可能性」をチームで評価するステップ
衝突解決策の合意後、次に考えるべきこと
チーム内で発生した衝突に対し、話し合いを通じてメンバー間の意見を整理し、合意できる解決策を見つけることは、リーダーシップにおける重要な一歩です。おめでとうございます。しかし、合意した解決策が、絵に描いた餅になってしまわないか、本当にチームの状況で実行できるのか、という新たな不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
初めてチームリーダーになられた方にとって、合意形成はできたものの、「この解決策で本当に大丈夫だろうか?」「実行段階で新たな問題は発生しないだろうか?」といった懸念は自然なことです。特に、経験が浅い時期には、その解決策の現実性や実行に伴うリスクを見抜くことに自信を持てない場合もあるでしょう。
この記事では、チームで合意した衝突解決策が、単なるアイデアで終わらず、現実的に実行され、望む結果につながるようにするための「実行可能性を評価するステップ」について解説します。このステップをチームと共に行うことで、解決策の質を高め、実行への納得感と成功確率を向上させることができます。
衝突解決策の実行可能性を評価するための基本ステップ
合意した解決策を前に、立ち止まってその「実行可能性」を冷静に評価することは、リーダーの重要な役割です。ここでは、チームで一緒に実行可能性を検討するためのステップを解説します。
ステップ1:合意した解決策の具体的な内容を全員で再確認する
まず、チームで「何に合意したのか」を曖昧さなく全員で共有することが出発点です。話し合いで熱くなったり、時間が押したりすると、最後に確認した内容に認識のズレが生じている場合があります。
- 目的: 解決策の具体的な内容、誰が何をいつまでに行うのか、どのような状態を目指すのかなど、キーポイントを明確にし、全員の認識を一致させます。
- 具体的な行動:
- 合意した解決策の要点を箇条書きなどでリストアップします。
- それぞれの項目について、リーダーが明確に読み上げ、メンバーに確認を求めます。
- 特に、誰が、何を、いつまでに、どのような方法で行うのか、といった具体的な行動計画が明確になっているかを確認します。
- リーダーからの問いかけ例:
- 「皆さんの認識と合っていますでしょうか?」「この点について、曖昧な部分はありませんか?」
- 「具体的に〇〇さんが△△をする、ということで認識は間違いないでしょうか?」
- NG行動: 合意内容の再確認をせず、次のステップに進んでしまう。メンバーからの小さな疑問や確認の求めを軽視する。
- 注意点: メンバーが自由に質問や意見を述べられる雰囲気を作ることが重要です。この段階で認識のズレを解消することが、後々の手戻りを防ぎます。
ステップ2:実行に必要な「リソース」を洗い出す
解決策を実行するために、具体的にどのような資源が必要になるかをリストアップします。
- 目的: 実行に必要な人、時間、お金、情報、ツールなどを具体的に特定し、不足しているリソースがないかを確認します。
- 具体的な行動:
- ステップ1で確認した具体的な行動計画に基づき、項目ごとに必要なリソースをチームでブレインストーミングします。
- 例:「〇〇さんの作業には、△△のツールが必要」「この作業には週にX時間の確保が必要」「他部署の承認を得るための調整時間が必要」など。
- 特に、時間と人員は見積もりが甘くなりがちなので、現実的な視点で検討します。
- リーダーからの問いかけ例:
- 「この作業をする上で、何か足りないものはありませんか?」
- 「このタスクを完了させるには、どれくらいの時間が必要になりそうでしょうか?」
- 「必要な情報や、他のメンバー・部署からの協力はありますか?」
- NG行動: リソースの洗い出しを漠然と行う。「多分大丈夫だろう」と根拠なく判断する。
- 注意点: メンバーそれぞれの経験や知識を活用し、具体的なリソースを可能な限り詳細に洗い出すことで、後のステップでリスクを特定しやすくなります。
ステップ3:潜在的な「障害・リスク」を特定する
解決策の実行を妨げる可能性のある要因や、予期せぬ問題が発生するリスクを予測します。
- 目的: 実行プロセスで起こりうる困難や、解決策が意図した効果を発揮しない可能性を事前に洗い出し、対策を検討できるようにします。
- 具体的な行動:
- 洗い出したリソースや、解決策の各ステップについて、「何がうまくいかない可能性があるか?」「どのような問題が起こりうるか?」をチームで議論します。
- 例:「必要なツールが期日までに手配できない」「担当メンバーのスキルが不足している」「関係部署の協力が得られない」「メンバーのモチベーションが維持できない」「元の問題が再発する」など。
- 悲観的になりすぎる必要はありませんが、考えられる可能性を率直に出し合うことが重要です。
- リーダーからの問いかけ例:
- 「この解決策を実行する上で、心配な点や懸念事項はありますか?」
- 「もし〇〇が起こったら、どうなりそうでしょうか?」
- 「過去に似たような取り組みで苦労した経験はありますか?」
- NG行動: 障害やリスクから目を背ける。楽観的に考えすぎる。メンバーがリスクを報告しにくい雰囲気を作る。
- 注意点: メンバーは、自分の担当する作業や、過去の経験からリスクを予測しやすい場合があります。メンバーの意見を尊重し、全ての懸念事項を記録します。
ステップ4:各障害・リスクへの「対策」を検討する
特定した障害やリスクに対し、それぞれどのように対応するかを具体的に検討します。
- 目的: リスクが現実になった場合の影響を最小限に抑えるための予防策や、問題発生時の対応策を準備します。
- 具体的な行動:
- 特定したリスクごとに、「そのリスクを回避するために事前にできることは何か?」「もしそのリスクが現実になったら、どう対応するか?」をチームで話し合います。
- 例:「ツールが手配できない場合は、代替策Aを準備する」「メンバーのスキル不足に対しては、事前に研修を実施する」「協力が得られない場合は、上位者に相談する」など。
- 対策を考えることで、リスクへの不安を軽減し、実行への自信を高めることができます。
- リーダーからの問いかけ例:
- 「もし〇〇というリスクが起こった場合、私たちはどうすれば良いでしょうか?」
- 「そのリスクを未然に防ぐために、今からできることはありますか?」
- 「対策を講じるために、追加で必要なリソースはありますか?」
- NG行動: リスクだけ洗い出して対策を考えない。対策が漠然としていて具体性がない。
- 注意点: 全てのリスクに完璧な対策を講じることは難しい場合もあります。可能性の高いリスクや、影響の大きいリスクに焦点を当てて対策を検討します。
ステップ5:全体として「実行可能性」と「対策」について最終合意・確認する
ここまでの検討結果を踏まえ、解決策が全体として実行可能であるか、対策は十分か、チーム全体で最終的な合意を形成します。
- 目的: 実行可能性の評価プロセスを通じて明らかになった情報を踏まえ、解決策の実行に対するチーム全体のコミットメントを強化します。
- 具体的な行動:
- 洗い出したリソース、特定したリスク、検討した対策を一覧で提示し、チーム全体で最終確認を行います。
- もし、評価の結果、解決策の実行が現実的に難しいと判断される場合は、元の解決策を修正するか、代替案を検討する必要があるかもしれません。その判断もチームで行います。
- 実行することに合意した場合、誰が何を担当するのか、いつまでに何を行うのか、といった具体的な実行計画と責任範囲を改めて明確にします。
- リーダーからの問いかけ例:
- 「ここまでの検討を踏まえ、この解決策は実行可能であると考えられますか?」
- 「対策は十分でしょうか?他に懸念点はありませんか?」
- 「この計画で進めることに、皆さん異論はありませんか?」
- NG行動: 評価結果をリーダーが一方的に判断する。懸念を持つメンバーの意見を聞き流す。曖昧なまま「大丈夫だろう」と先に進む。
- 注意点: このステップは、単なる形式的な確認ではなく、チーム全員が実行可能性と対策について納得し、共通認識を持つための重要な機会です。時間をかけて丁寧に行います。
実行可能性評価におけるよくある落とし穴と対策
初めてこの評価を行う際、陥りやすい落とし穴があります。
- 落とし穴1:リソースやリスクの見積もりが甘い
- 「なんとなくいけそう」といった根拠のない楽観論に流されがちです。
- 対策: 具体的な数値を意識して見積もります。過去の類似タスクの経験や、他のメンバー・部署へのヒアリングも活用します。複数の視点から現実性をチェックします。
- 落とし穴2:メンバーが本音でリスクを報告しない
- 「自分が担当する部分の不安を言うと、評価が下がるのではないか」「空気を悪くしたくない」といった懸念から、ネガティブな情報を伝えにくい場合があります。
- 対策: リーダーが率先して「ここではどんな懸念でも歓迎する」「失敗を防ぐための話し合いだ」という姿勢を示します。リスク報告を責めるのではなく、対策を一緒に考える建設的な姿勢を貫きます。匿名での懸念事項提出なども検討できます。
- 落とし穴3:評価プロセスに時間をかけず、すぐに実行に移したがる
- 早く解決したい気持ちから、評価をおろそかにしてしまうことがあります。
- 対策: 評価は、後々の大きな手戻りや失敗を防ぐための「先行投資」だと認識します。チーム全体で、この評価ステップの重要性を共有し、必要な時間を確保します。
- 落とし穴4:リーダーが一人で判断してしまう
- チームでの評価プロセスを経ず、リーダーの経験や直感だけで実行可否を判断してしまうことがあります。
- 対策: チームメンバーは、それぞれの立場から異なる視点や情報を持っています。チームで評価することで、一人では気づけないリスクや必要なリソースに気づくことができます。必ずチームで話し合うプロセスを組み込みます。
まとめ:現実的な解決策の実行へ踏み出すために
チームで合意した衝突解決策の実行可能性を評価するステップは、初めてリーダーとして衝突解決に取り組む方にとって、不安を軽減し、自信を持って次に進むための重要なプロセスです。
このステップを通じて、単に「解決策を決めた」だけでなく、「現実的に実行するための準備ができた」という確かな手応えを得られるはずです。リソースの不足や予期せぬリスクに事前に気づき、対策を講じることで、実行段階での問題を最小限に抑えることができます。
最初は難しく感じるかもしれませんが、今回ご紹介したステップに沿って、一つずつ丁寧に進めてみてください。メンバーとの対話を通じて、チーム全体の現実的な視点や知恵を集めることが、解決策の成功確率を高める鍵となります。
衝突解決は、合意形成で終わりではありません。その解決策を現実のものとし、チームの成長につなげていくことこそが、リーダーとしての次の挑戦です。一歩ずつ、着実に進んでいきましょう。