はじめての衝突解決:話し合いで沈黙するメンバーの本音を引き出すステップ
チーム内の衝突解決の話し合いにおいて、活発に意見交換が行われる一方で、全く発言しないメンバーがいる場合、リーダーとしてどのように対応すれば良いか悩むことがあるかもしれません。初めてリーダーになったばかりの方であれば、特にその対応に不安を感じることもあるかと存じます。
沈黙するメンバーは、必ずしも無関心であるわけではありません。様々な理由で発言をためらっている可能性があります。例えば、自分の意見を言うのが苦手、他のメンバーの発言に圧倒されている、考えがまとまっていない、意見を否定されることへの恐れ、単純に発言のタイミングを見失っている、といった背景が考えられます。
リーダーは、沈黙をネガティブなものと決めつけず、その背景を理解しようと努める姿勢が重要です。そして、メンバーが安心して本音を話せる環境を作り、自然な形で発言を促すための働きかけを行うことが求められます。
ここでは、初めてチームの衝突解決に臨むリーダーに向けて、話し合いで沈黙するメンバーの本音を引き出すための具体的なステップと、実践的なヒントをご紹介します。
沈黙するメンバーの本音を引き出すための基本ステップ
話し合いの場でメンバーが沈黙している場合、以下のステップで対応することを検討してください。
ステップ1:沈黙を観察し、安易な解釈を保留する
まず、なぜそのメンバーが沈黙しているのか、表面的な観察だけで判断しないことが重要です。単に考えている最中かもしれませんし、発言の機会を伺っているだけかもしれません。
リーダーとしては、「何も考えていないのではないか」「やる気がないのか」といったネガティブな決めつけをせず、様々な可能性を考慮しながら状況を観察します。メンバーの表情やジェスチャーなど、非言語的なサインも注意深く見守ります。
ステップ2:発言しやすい「安全な雰囲気」を作る
メンバーが沈黙する理由の一つに、心理的な安全性が低い状況が挙げられます。つまり、「ここで発言しても大丈夫だ」「否定されない」と感じられない環境です。リーダーは、話し合いの場全体の雰囲気を和やかにし、誰もが安心して発言できる空気を作ることに注力します。
具体的には、話し合いの冒頭で「どんな意見でも歓迎します」「間違いを恐れずに話しましょう」といったメッセージを伝えることや、アイスブレイクを取り入れることなどが有効です。また、他のメンバーが発言した際に、たとえ自分と異なる意見であっても、頭ごなしに否定せず、まずは「〇〇さんの意見ですね、ありがとうございます」のように肯定的に受け止める姿勢をリーダー自身が示すことが、心理的安全性の向上につながります。
ステップ3:沈黙しているメンバーに意識的に配慮する
全員が同時に話す機会を持つことは難しいため、意識的に沈黙しているメンバーに発言を促す声かけを行います。しかし、無理強いするような形ではなく、あくまで選択肢を与える形で優しくアプローチします。
例えば、「〇〇さんは、この件について何か感じたことはありますか?」「もしよろしければ、〇〇さんの視点を聞かせてもらえませんか?」といった形で、問いかけをします。その際、「すぐにでなくても大丈夫ですよ」や「少し考えてからでも構いません」といった言葉を添えると、相手のプレッシャーを和らげることができます。
【会話例:良い例】 リーダー:「この件について、いくつか意見が出ましたが、〇〇さんは何か感じたことはありますか?すぐに思いつかなくても大丈夫です。後で少し話を聞かせてもらう形でも構いません。」
【会話例:悪い例】 リーダー:「〇〇さん、さっきから何も話していませんが、どうなんですか?意見がないと困りますよ。」 (※このように、責めるような口調や、発言しないことを問題視するような言い方は、さらにメンバーを萎縮させてしまいます。)
ステップ4:オープンクエスチョンを用い、沈黙を待つ忍耐を持つ
沈黙しているメンバーに問いかける際は、「はい」「いいえ」で答えられるクローズドクエスチョンではなく、「どのように」「どんなことを」といったオープンクエスチョンを用いることで、考えや感情を引き出しやすくなります。
また、問いかけた後にすぐに答えが得られない場合でも、焦らず、沈黙を待つ忍耐力がリーダーには求められます。メンバーは頭の中で考えを整理している途中かもしれません。「沈黙は悪ではない」と捉え、数秒から数十秒、落ち着いて待つ時間を作ることも重要です。リーダーが沈黙に耐えられないと、すぐに次の話題に移ってしまい、メンバーの発言機会を奪うことになります。
ステップ5:小さな発言も肯定的に受け止める
ようやくメンバーが何か発言してくれたら、その内容がたとえ期待していたものと異なっても、あるいは非常に短い内容であっても、肯定的な態度で受け止めます。「話してくれてありがとう」「その視点は大切ですね」といった感謝や共感の言葉を伝えることで、メンバーは「発言してよかった」と感じ、次も安心して話そうという気持ちになります。
発言内容をすぐに評価したり、否定したりせず、まずは「傾聴」の姿勢で、相手の話を最後まで聞くことに徹します。
ステップ6:必要であれば個別フォローを行う
話し合いの場では発言しづらいタイプのメンバーもいます。そういった場合は、話し合いが終わった後に個別に声をかけ、「今日の話し合いで、何か気になったことや、話せなかったことはありますか?」と尋ねてみることも有効です。1対1の場であれば、よりリラックスして本音を話しやすい場合があります。
個別の場で話を聞く場合は、その場で解決策を決めるというよりは、あくまで「話を聞くこと」に重点を置き、メンバーの気持ちや考えを理解することを目指します。
リーダーが陥りがちな落とし穴と対策
沈黙するメンバーへの対応において、初めてのリーダーが陥りやすい落とし穴と、その対策を解説します。
- 落とし穴1:沈黙を「意見がない」「やる気がない」と決めつける
- 対策: 沈黙の背景には様々な理由があることを理解し、安易な憶測や決めつけをしないように意識します。観察に徹し、決めつけずに声かけを試みます。
- 落とし穴2:無理に発言を迫り、メンバーを追い詰める
- 対策: 「何か言え」「早く答えて」といったプレッシャーを与える言葉は避けます。あくまで「もしよろしければ」「何かあれば」といった、相手に選択肢を残す優しい声かけを心がけます。
- 落とし穴3:問いかけた後にすぐ沈黙に耐えられず、自分で話し始めてしまう
- 対策: 問いかけの後に、意図的に数秒間の沈黙の時間を設ける練習をします。沈黙は「考えている時間」であると捉え、焦らず待つことを意識します。
- 落とし穴4:発言してくれた意見をすぐに評価・否定する
- 対策: メンバーが勇気を出して発言してくれたこと自体に感謝し、まずは内容を批判せず「聞く」ことに集中します。「なるほど、そういう考えもあるのですね」のように、一度受け止めるクッション言葉を使います。
まとめ
話し合いで沈黙するメンバーへの対応は、初めてのリーダーにとって難しい課題の一つかもしれません。しかし、沈黙を恐れず、その背景にあるメンバーの気持ちや考えに寄り添い、根気強く対話を試みることで、チームの多様な意見を引き出し、より良い解決策へと繋げることができます。
大切なのは、リーダーが一方的に話すのではなく、メンバーが安心して話せる「場」を作り、発言の機会を意識的に提供することです。そして、たとえ小さな一歩であっても、メンバーが本音を話してくれた際には、それを丁寧に受け止め、感謝の気持ちを伝えることです。
すぐに全てのメンバーが活発に発言するようになるわけではないかもしれません。しかし、今回ご紹介したステップを実践し続けることで、少しずつチーム内の心理的な安全性が高まり、メンバーが本音を語りやすい関係性を築いていくことができるはずです。一つずつ、試してみてください。