はじめての衝突解決:「なぜこの衝突が起きたのか」原因を見抜く具体的なステップ
チームのリーダーとして働き始め、メンバー間のちょっとした意見の食い違いや、表面的な不満が、いつの間にか大きな対立に発展してしまう場面に直面することがあるかもしれません。
「どうしてこんなことで揉めるんだろう?」 「一体何が原因なんだろう?」
原因が分からず、ただ目の前の感情的なやり取りに圧倒されてしまうと、どのように対応して良いか分からなくなり、不安を感じることもあるでしょう。
しかし、衝突を効果的に解決するためには、まずその「なぜ」を理解し、問題の根本原因を見抜くことが非常に重要です。表面的な事象だけにとらわれず、その奥に潜む原因を特定することで、適切な解決策が見えてきます。
この記事では、初めてチームリーダーになったあなたが、チーム内の衝突の原因を冷静に見抜き、解決への第一歩を踏み出すための具体的なステップを解説します。
なぜ衝突の「根本原因」を見抜くことが重要なのか
衝突が発生した際、私たちはつい、目の前で起きていること(「AさんがBさんの意見に強く反論した」「メンバーが期限を守らないことに不満を言っている」など)や、関わっている人々の感情(「Aさんは怒っている」「Bさんは不満そうだ」など)に目を向けがちです。
もちろん、これらも重要な情報ですが、これらはあくまで「表面的な事象」や「結果」であることが多いです。根本的な原因に対処しないまま、表面的な解決策(例:「仲直りしてね」「今回は我慢して」)で終わらせてしまうと、同じような衝突が形を変えて再発したり、チーム内に不満が蓄積したりする可能性があります。
衝突の根本原因(例:「役割分担が曖昧」「情報共有の仕組みがない」「目標設定が不明確」など)を見抜くことは、単に目の前の火を消すだけでなく、チームを長期的に健全に運営していく上で不可欠なプロセスと言えます。原因が分かれば、再発防止策や、より建設的なチーム作りのための改善点が見えてくるからです。
衝突の根本原因を見抜くための具体的なステップ
それでは、衝突の根本原因を特定するために、具体的にどのようなステップを踏めば良いのかを見ていきましょう。
ステップ1:表面的な事象と根本原因を区別する
まず、今起きている「表面的な事象」と、その背後にある可能性のある「根本原因」は異なるものである、という認識を持つことが出発点です。
- 表面的な事象: 何が、いつ、どこで起きているか。誰が、誰に対して、どのような言動をとっているか。目に見える事実や、メンバーが口にしている具体的な不満など。
- 根本原因: なぜその事象が起きているのか。その言動の背景にあるものは何か。個人の内面的な要因、人間関係、チームのルール・文化、組織の構造、外部環境など、より深いレベルの要因。
例えば、「特定のメンバー同士がいつも意見で対立する」というのは表面的な事象です。その根本原因は、「お互いの専門性に対する理解不足」「過去の誤解による不信感」「実は共有されていない前提情報がある」など、様々な可能性が考えられます。
この段階では、まずは「これは表面的なことかもしれない」と一歩引いて捉える冷静さが求められます。
ステップ2:情報収集と事実確認を徹底する
根本原因を探るためには、様々な角度からの情報が必要です。最も有効な情報源は、やはりチームメンバー自身です。
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関係者からのヒアリング: 衝突に関わっているメンバー、あるいはその場にいた他のメンバーから、個別に話を聞きます。
- 聞くべき内容:
- 何が起きたと感じているか
- その出来事について、どう感じているか
- なぜそうなったと思うか
- 自分自身はどのような行動をとったか
- 相手はどのような意図で行動したと思うか
- 過去に似たようなことはあったか
- どのように解決されることを望むか
- ヒアリングのポイント:
- 非難しない: 相手を責めるのではなく、「状況を理解したい」という姿勢で聞く。
- 傾聴に徹する: 相手の話を遮らず、まずは最後までしっかり聞く。頷いたり、相槌を打ったりして、聞いていることを示す。
- 感情的な部分も受け止める: 相手が感情的になったとしても、その感情そのものを否定せず、「そう感じているのですね」と受け止める。ただし、冷静さを保つ努力は必要です。
- 事実と意見を区別して聞く: 「〇〇さんが△△と言いました(事実)」と「△△と言われたので、私は不当だと感じました(意見/感情)」のように、相手の話の中で事実と意見が混ざっていることを意識して聞きます。
- 複数の視点から聞く: 一方だけの話を聞いて判断せず、関係者それぞれの視点から話を聞くことが、公平な理解に繋がります。
- 聞くべき内容:
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客観的な情報の収集: 議事録、チャット履歴、メール、プロジェクト管理ツールの記録など、客観的な情報があれば確認します。これにより、事実関係を正確に把握し、メンバーの話が事実に基づいているかを確認できます。
NGな情報収集: * 一方のメンバーの話だけを鵜呑みにして、もう一方に確認しない。 * 話を聞く前に「きっと〇〇が悪いんだろう」と決めつけてかかる。 * メンバーの話を他のメンバーに安易に漏らしてしまう(守秘義務の軽視)。
ステップ3:複数の視点から原因を分析する
収集した情報をもとに、考えられる原因を多角的に洗い出します。原因は一つとは限りません。いくつかの要因が複合的に絡み合っていることも多いです。
考えられる原因の例:
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個人の内面/スキル:
- 価値観や考え方の違い
- コミュニケーションスタイルの違い(例: 直接的すぎる、曖昧すぎる)
- 特定のスキル(例: 報告、連絡、相談のスキル)の不足
- ストレスや個人的な問題(デリケートなので慎重に)
- 過去の経験やトラウマ
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人間関係:
- メンバー間の不信感
- 過去の衝突や誤解が未解決のまま残っている
- 特定のメンバー同士の相性(必ずしも悪いわけではないが、違いが摩擦を生む)
- チーム内の派閥や孤立しているメンバーの存在
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チームの仕組み/プロセス:
- 役割分担や責任範囲が不明確
- 情報共有のルールやツールが整備されていない、あるいは活用されていない
- 意思決定のプロセスが不透明または不公平に感じられる
- 目標設定が曖昧で、進むべき方向性がずれている
- 評価制度や報酬体系に対する不満
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組織/環境:
- 部署間の連携不足
- リソース(人員、時間、予算など)の不足
- 組織文化や風土が、協力よりも競争を促す
- 外部環境の変化への適応不足
このように、様々な角度から「なぜこれが起きているのか?」と問いを立ててみます。例えば、「AさんとBさんが意見で対立する」という事象に対し、「なぜ彼らは対立するのか?」「彼らの意見の違いはどこから来るのか?」「意見を一致させるための情報やルールは不足していないか?」「過去に何か原因となる出来事はなかったか?」といった具合です。
ステップ4:最も可能性の高い原因を特定する
収集した情報と分析の結果に基づき、最も可能性が高いと思われる根本原因を特定します。これは「犯人探し」ではありません。状況を改善するために、どの要因に働きかけるべきかを見定めるプロセスです。
- 複数の候補がある場合は、それぞれの原因が「表面的な事象」をどれだけ上手く説明できるか、という観点で検証します。
- 「これが原因だろう」という仮説を立て、その仮説が正しいかどうかを、さらに別の情報や視点から確認できないか考えてみます。
- 断定せず、「おそらく、この要因が最も影響が大きいだろう」というように、ある程度の蓋然性で捉える冷静さも重要です。原因が複雑すぎて、完全に特定できない場合もあります。その場合は、可能性が高い複数の原因に対して同時にアプローチすることを検討します。
具体的なシチュエーション例と原因特定のアプローチ
シチュエーション: チームメンバーのCさんとDさんが、プロジェクトの進め方について常に意見が合わず、会議で感情的な言い争いになることが増えた。
原因特定のアプローチ:
- 表面的な事象: CさんとDさんがプロジェクトの進め方で意見対立し、感情的な言い争いになる。
- 情報収集:
- Cさん、Dさんそれぞれから個別に話を聞く。(なぜ意見が違うのか、どう感じているか、相手の言動をどう捉えているか、望む解決策など)
- 他のチームメンバーにも、彼らのやり取りについてどう見えているか、何か背景を知っているかを聞く。
- プロジェクトの計画書や過去の議事録を確認し、進め方に関する共通認識がどこまであったか、役割分担は明確かなどを確認する。
- 原因の分析:
- 個人の内面/スキル: CさんとDさんで仕事の進め方に対する価値観が根本的に違う可能性(例:Cさんは効率重視、Dさんは品質重視)。コミュニケーションスタイルの違い。
- 人間関係: 過去に別のプロジェクトで意見の食い違いがあり、その時の不満が解消されていない可能性。
- チームの仕組み/プロセス: プロジェクトの最終目標や評価基準が曖昧で、それぞれの「良い進め方」の定義がずれている可能性。情報共有が不足しており、お互いの進捗状況や抱えている課題を十分に理解していない可能性。
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原因の特定:
- ヒアリングの結果、Cさんは「とにかく早く完了させたい」、Dさんは「多少時間がかかっても完璧なものを作りたい」という異なる価値観を持っていることが分かった。
- また、プロジェクト開始時の目標設定が「成功」という曖昧な言葉で終わっており、具体的な評価基準が共有されていなかった。
- さらに、お互いの担当部分の進捗を詳細に共有する仕組みがなく、相手の状況を十分に理解できていなかった。
これらの情報から、「プロジェクトの目標設定の曖昧さ」「異なる価値観を持つメンバー間での情報共有不足」が主な根本原因である可能性が高いと特定します。単に「相性が悪い」と片付けるのではなく、仕組みや情報共有に目を向けることが重要です。
よくある落とし穴と対策
衝突の原因特定を進める上で、初めてのリーダーが陥りやすい落とし穴とその対策を知っておくことも重要です。
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落とし穴:決めつけや推測で判断する
- 「あの人はいつもああだから、きっとまたか…」
- 「この人が言っていることの方が正しいだろう」
- 情報が不十分なまま、「おそらく〇〇が原因だろう」と早合点する。
- 対策: 必ず関係者それぞれの話を聞き、客観的な情報も確認する。自分の憶測で判断せず、「なぜそう考えたのか」を自分自身に問い直し、複数の可能性を考慮する。
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落とし穴:犯人探しになる
- 「誰が悪いのか」を見つけようとする姿勢で情報収集や分析を行う。
- 特定の個人に原因を押し付けようとする。
- 対策: 原因は個人だけにあるとは限りません。チームの仕組みや環境、人間関係など、構造的な要因にも目を向けます。目的は「誰かを責めること」ではなく、「状況を改善すること」であることを常に意識します。
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落とし穴:表面的な言葉だけを捉える
- メンバーが口にする不満や要求の言葉通りの意味だけを受け取る。
- その言葉の裏にある、本当の感情やニーズに気づかない。
- 対策: 「なぜそう感じるのか」「その言葉の背景には何があるのか」を問いかけ、相手の感情や立場に寄り添いながら話を聞く。言葉の額面通りだけでなく、非言語情報や文脈も考慮に入れます。
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落とし穴:自分の感情に引きずられる
- リーダー自身が衝突に対して感情的になったり、特定のメンバーに肩入れしたりする。
- 対策: 一度冷静になり、客観的な視点を取り戻す時間を設けます。必要であれば、信頼できる他の先輩や同僚に相談し、状況を整理する手助けを求めます。中立的な立場を保つ努力が必要です。
まとめ
チーム内の衝突に直面した際、「どうして?」という疑問を持ち、その根本原因を見抜こうとすることは、効果的な解決への最も重要な第一歩です。初めてのリーダーにとっては難しく感じられるかもしれませんが、冷静に以下のステップを踏むことで、必ず道筋が見えてきます。
- 表面的な事象と根本原因を区別する
- 情報収集と事実確認を徹底する(傾聴と多角的な視点)
- 複数の視点から原因を分析する(個人、関係性、仕組み、環境など)
- 最も可能性の高い原因を特定する(決めつけず、状況改善に焦点を当てる)
これらのステップは、すぐに完璧にできるものではありません。実践を重ねる中で、少しずつ原因を見抜く力がついてきます。衝突を恐れず、成長の機会と捉え、一歩ずつ取り組んでみてください。原因が特定できれば、次のステップである「解決策の検討と実行」に、自信を持って進むことができるはずです。
このサイトでは、衝突解決の各ステップについて、さらに詳しく解説しています。この記事で根本原因の特定に自信がついたら、次は具体的な解決策の話し合い方や、解決策の実行について学ぶ記事も参考にしてみてください。あなたのリーダーシップが、チームをより強く、より建設的なものへと導く力になることを応援しています。