はじめての衝突解決:メンバーの本音を聞き、問題の本質を見抜くステップ
はじめに:なぜ「聞く力」が衝突解決の第一歩なのか
チームリーダーとして、あなたはチームの成果だけでなく、メンバー間の良好な関係性にも責任を持つことになります。初めてリーダーを経験する方にとって、チーム内の意見の対立や不満といった「衝突」は、どのように対応すれば良いか分からない大きな不安要素の一つかもしれません。感情的にならず、公平に問題を解決するには、まず何から始めれば良いのでしょうか。
衝突解決の最初の、そして最も重要なステップは、「問題を正しく理解する」ことです。そして、問題を正しく理解するためには、関係者一人ひとりの「声を聞く」ことが不可欠です。表面的な言葉の裏にある本音、見えにくい感情、そして事態の全体像を把握することなくして、適切な解決策を見出すことは困難です。
この記事では、初めてチームリーダーになった方が、衝突発生時にメンバーの本音を聞き出し、問題の本質を冷静に見抜くための基本的なステップを解説します。具体的な会話例や、避けるべきNG行動も交えながら、あなたが自信を持って最初の一歩を踏み出せるようサポートします。
衝突解決の基本ステップ:傾聴と問題特定に焦点を当てる
衝突解決にはいくつかの段階がありますが、ここでは特に初心者の方が意識すべき「問題を正しく捉える」ためのステップに焦点を当てます。
ステップ1:安全な対話の場を設ける
まず、関係者が安心して話せる環境を整えることから始めます。場所は、他のメンバーの目が気にならない会議室やオンラインのブレイクアウトルームなどが適切です。時間も十分に確保し、途中で中断されることのないように配慮します。
面談の冒頭で、「今日は、今チームで起きていることについて、あなたの考えや感じていることをじっくり聞かせてもらいたいと思っています。非難するためではなく、状況を正しく理解するために話を聞きたいので、安心して率直に話してください」といったメッセージを伝えることが重要です。リーダー自身が落ち着いた態度を示し、公平な聞き手であることを明確にすることで、相手の緊張を和らげることができます。
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良い例:
- 「Aさん、今日はこの件について、あなたの考えや感じていることを聞かせてもらえませんか。ここでは安心して話してください。」
- 「Bさん、先日の件について、あなたの視点から見た状況を詳しく教えていただけますか。解決に向けて、まずあなたの声を聞きたいと思っています。」
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NG例:
- 「ちょっと聞きたいんだけど、あの件、どう思ってるの?早く解決したいんだよね。」(準備不足、性急な印象)
- 「Cさん、あなたは悪くないんだけど、Dさんとちょっと話が合わないみたいだから聞かせてもらえる?」(すでにどちらかの肩を持つような印象を与える)
ステップ2:共感を持って相手の話を「聴く」(アクティブリスニング)
相手が話し始めたら、あなたの役割は「聴く」ことです。ただ聞くのではなく、「アクティブリスニング(積極的傾聴)」を心がけます。
- 相槌やうなずき: 相手の話に合わせて、自然な相槌を打ったり、うなずいたりすることで、「あなたの話をしっかり聞いていますよ」という意思表示になります。
- 繰り返し: 相手が話した重要な内容を、自分の言葉で要約して繰り返すことで、理解が合っているか確認できます。「つまり、〇〇ということですね?」
- 感情への配慮: 相手が感情的になっている場合は、まずその感情を受け止める姿勢を示します。「それは辛かったですね」「大変な思いをされたのですね」など、共感の言葉を挟むことで、相手は「理解してもらえている」と感じやすくなります。ただし、感情に引きずられすぎず、冷静さを保つことが重要です。
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遮らない: 相手が話している途中で、自分の意見や反論を挟むのは避けます。最後まで話を遮らずに聞くことが信頼関係の構築につながります。
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良い例:
- 相手:「…それで、いくら言っても理解してもらえなくて、もう本当に嫌になってしまって。」
- リーダー:「なるほど、何度も説明しても伝わらず、とても大変な思いをされたのですね。他に何かあったことはありますか?」
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NG例:
- 相手:「…それで、いくら言っても理解してもらえなくて。」
- リーダー:「いや、でも相手も悪気はなかったと思うよ。それにね…」(相手の話を遮って自分の意見を言う)
- 相手:「もう本当に嫌になってしまって…」
- リーダー:「まあまあ、そんなに感情的にならないで。」(感情を否定する)
ステップ3:事実と感情、解釈を区別して整理する
相手の話を聞く中で、何が「事実」なのか、何がその人の「感情」なのか、そして何がその人の「解釈」や「推測」なのかを区別するよう努めます。衝突の多くは、事実の誤認や、異なる解釈、感情的な行き違いによって起こります。
- 事実: 誰が見ても客観的に確認できる出来事。「〇月〇日に、△△の会議で、Aさんが××と言った」など。
- 感情: その出来事に対する本人の気持ち。「悲しかった」「腹立たしい」「不安だった」など。
- 解釈/推測: その出来事や相手の言動に対する本人の受け止め方や推測。「Aさんは私を無視していると思った」「きっと悪意があったのだろう」など。
話を聞きながら、心の中でこれらを整理したり、必要に応じて「それは、実際に起きたことですか、それともあなたがそう感じたということですか?」のように、優しく確認する質問を挟むことも有効です。ただし、問い詰めたり、疑っているような印象を与えないよう注意が必要です。
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良い例:
- 「あなたが話してくれた中で、『〇月〇日に資料を渡したのに、すぐに反応がなかった』というのは事実としてあった出来事ですね。それに対して、あなたは『無視された』と感じて、悲しい気持ちになった、という理解で合っていますか?」
- 「彼が『そのやり方は非効率だ』と言った時、あなたはそれを『自分の仕事の進め方を否定された』と受け止めたのですね。その時、具体的にどのような言葉でしたか?」
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NG例:
- 「結局、あなたは相手が悪かったと言いたいわけですね?」(感情や解釈を一方的に決めつける)
- 「それってあなたの思い込みじゃないですか?」(解釈を頭ごなしに否定する)
ステップ4:問題の根本原因を特定する
関係者それぞれの話(複数の関係者がいる場合は、それぞれから話を聞くことが重要です)を総合的に整理したら、衝突の表面的な出来事だけでなく、その背後にある根本的な原因を探ります。
よくある原因としては、以下のようなものがあります。
- コミュニケーション不足/齟齬: 情報伝達が不十分だった、言葉の解釈が違った。
- 期待値のズレ: 役割分担や成果物に対する期待が異なっていた。
- 価値観や優先順位の違い: 何を重要視するかが異なっていた。
- リソース(時間、人員など)の不足: 限られたリソースを巡る競争。
- 個人的な感情や人間関係: 過去の経緯や相性など。
様々な角度から情報を照らし合わせ、「この衝突はなぜ起きたのか」「何が本当の火種なのか」を分析します。この段階で焦って解決策を出す必要はありません。まずは正確な原因特定に注力します。
- 例:
- Aさんからは「Bさんが協力してくれない」、Bさんからは「Aさんの指示が曖昧で困る」という話を聞いた。→ コミュニケーション方法に問題があるのでは?(原因候補)
- Cさんからは「Dさんがいつもギリギリに仕事を振ってくる」、Dさんからは「Cさんの承認が遅い」という話を聞いた。→ 承認プロセスや情報共有のタイミングに問題があるのでは?(原因候補)
はじめてのリーダーが陥りやすい落とし穴と対策
- 一方の話だけを聞いて判断する: 衝突には必ず複数の視点があります。関係者全員から公平に話を聞くことが必須です。
- 対策: 関係者リストを作成し、一人ずつ丁寧に面談する時間を設ける。
- 感情的になる、または共感しすぎる: 相手の感情に引きずられ、冷静な判断力を失うことがあります。
- 対策: 聞き手であるリーダー自身が、まず深呼吸するなど冷静さを保つことを意識する。相手の感情に「共感」はしても、「同情」や「同一化」はしないよう線を引く。
- すぐに解決策を提示しようとする: 問題の本質を捉える前に解決策を急ぐと、的外れな対応になりがちです。
- 対策: 「まずは状況を理解することに専念する」と自分に言い聞かせる。原因特定が終わるまで、解決策の話は封印する。
- 根拠のない推測で原因を決めつける: リーダーの憶測で「きっと〇〇だろう」と決めつけると、関係者の不信感を招きます。
- 対策: 必ず関係者の証言や客観的な事実に基づいて原因を分析する。不明な点は推測せず、追加で質問するか情報を集める。
まとめ:最初の一歩は「正しく聞く」ことから
初めてチームリーダーとして衝突に直面したとき、どうすれば良いか分からず不安になるのは自然なことです。しかし、大切なのは、感情に流されず、適切なステップを踏むことです。
今回解説した「安全な場を設ける」「共感を持って聴く」「事実と感情を整理する」「根本原因を特定する」というステップは、衝突解決の基礎となる「問題を正しく捉える」ための非常に重要なプロセスです。すぐに完璧にこなすことは難しくても、これらのステップを意識してメンバーの話を聞くことから始めてみてください。
メンバーが安心して話せる聞き手となること、そして問題の本質を見抜く力は、練習することで必ず身についていきます。最初から全ての衝突を完璧に解決しようと思わず、まずは目の前のメンバーの声に耳を傾けることから始めてみましょう。あなたの聞く姿勢が、解決に向けた第一歩となるはずです。