はじめての衝突解決:メンバーの本音を聞き出す『傾聴力』を磨くステップ
チームリーダーとして、チーム内の衝突に直面することは避けて通れない道かもしれません。特に、はじめてリーダーになったばかりの頃は、「どう対応すれば良いのだろう」「感情的にならずに解決できるだろうか」といった不安を感じることもあるでしょう。
衝突解決において最も重要かつ最初のステップの一つは、関係するメンバーの「本音」や「本当の気持ち」を正確に理解することです。表面的な意見の対立だけを見ていると、問題の本質を見誤り、適切な解決策にたどり着けません。
そこで鍵となるのが、「傾聴力」です。傾聴とは、単に相手の話を聞くのではなく、相手の立場や感情に寄り添い、共感しながら、話の背景にある意図や本音を深く理解しようとする姿勢のことです。
この傾聴力を磨くことは、はじめての衝突解決を乗り越えるための強力な武器となります。この章では、チームの衝突解決でメンバーの本音を聞き出すために必要な「傾聴力」を鍛える具体的なステップを解説します。
なぜ衝突解決に『傾聴力』が不可欠なのか
衝突が発生したとき、メンバーは様々な感情(不満、不安、怒り、悲しみなど)を抱えていることが一般的です。しかし、これらの感情が表面的な言動や意見として表れる際、必ずしもその感情や問題の本質が明確に伝わるわけではありません。
例えば、「Aさんのやり方には納得できません」という意見の裏には、「Aさんの仕事の進め方によって、自分のタスクに遅れが出ていることへの不満」や「自分の意見が尊重されていないと感じる悲しみ」が隠されている可能性があります。
傾聴力を用いることで、リーダーはこうした表面的な言葉の奥にある、メンバーの本当の懸念や要求、感情を汲み取ることができます。これにより、問題の根源を正しく特定し、感情的な対立に発展する前に、建設的な解決策を模索する土台を築くことができるのです。
傾聴力を磨くための基本ステップ
傾聴力を効果的に使うためには、いくつかのステップと心構えが必要です。
ステップ1:傾聴のための心構えと準備
メンバーの話を聴く前に、まずリーダー自身が適切な状態を整えることが重要です。
- 感情を一旦脇に置く: 衝突の状況にリーダー自身が感情的に引きずられていると、公平な視点や冷静な判断が難しくなります。深呼吸をする、少し時間を置くなどして、まずは自分の感情を落ち着かせましょう。
- 先入観を持たない: 「どうせあの人はこう言うだろう」「この問題の原因はこれだろう」といった先入観は、メンバーの本音を聞き逃す原因となります。まっさらな気持ちで相手の話を聴く準備をします。
- 聴くための環境を整える: メンバーが安心して話せる、物理的・時間的な準備を行います。騒がしくない場所を選び、話を中断される心配のない時間帯を設定します。可能であれば1対1で話す場を設けるのが良いでしょう。
- 目的を明確にする: この場は、解決策を出す場ではなく、まずはメンバーの話を「聴き、理解する」場であることを明確に意識します。
ステップ2:メンバーの話を積極的に「聴く」具体的なテクニック
実際にメンバーの話を聴く際の具体的なテクニックです。これらを意識することで、メンバーは「ちゃんと聞いてもらえている」と感じ、安心して本音を話しやすくなります。
- 相槌や頷き: 適切なタイミングで「はい」「ええ」「なるほど」といった相槌を打ったり、頷いたりすることで、相手に聞いていることを伝えます。
- 繰り返し(バックトラッキング): 相手の言ったことの要点やキーワードを、自分の言葉で繰り返します。「〜ということですね」「つまり、〜だとお感じなのですね」のように伝えます。これにより、自分の理解が合っているか確認できますし、相手は理解されていると感じます。
- 言い換え・要約: 話しの区切りなどで、相手の話をまとめて言い換えます。「これまでの話をまとめると、〜という状況で、特に〜の部分にお困りだということでしょうか」のように伝えます。
- 沈黙を恐れない: メンバーが言葉に詰まったり、考えていたりする際の沈黙は、本音を探すための重要な時間であることがあります。すぐに次の言葉を促すのではなく、数秒待ってみる余裕を持ちます。
- 非言語コミュニケーション: 相手の目を見て(アイコンタクト)、相手に体を向け、開いた姿勢で聴きます。腕組みなど、閉じた姿勢は避けましょう。声のトーンや表情も、落ち着いて真剣であることを示します。
ステップ3:本音を引き出す「質問力」
ただ待っているだけでは出てこない本音もあります。適切な質問を投げかけることで、メンバーは自分の気持ちや考えを整理し、表現しやすくなります。
- オープンクエスチョンの活用: 「はい」「いいえ」で答えられるクローズドクエスチョンではなく、「どのように」「どのような点が」「具体的には」といった、自由に答えられるオープンクエスチョンを使います。「この状況について、あなたはどのようにお感じですか?」と尋ねることで、感情や考えを引き出しやすくなります。
- 感情に寄り添う質問: 表面的な出来事だけでなく、それに伴う感情に焦点を当てた質問をします。「その時、あなたはどのようなお気持ちでしたか?」「〜と感じたのは、なぜでしょうか?」のように尋ねることで、問題の感情的な側面を理解できます。
- 具体的な状況を尋ねる: 漠然とした不満ではなく、特定の出来事や状況について具体的に尋ねます。「具体的に、Aさんのどのような言動が気になりましたか?」「その問題は、いつ頃から始まりましたか?」のように尋ねることで、問題の背景や経緯を把握しやすくなります。
- 誘導尋問を避ける: 自分の考えや推測を前提とした質問は、相手の回答を誘導してしまい、本音から遠ざかります。「〜という理由で不満なんですよね?」と決めつけるような聞き方ではなく、「その不満の理由は何でしょうか?」と率直に尋ねます。
ステップ4:聞き出した情報を整理し、理解を深める
傾聴によって得られた情報は多岐にわたる可能性があります。それを整理し、冷静に分析することで、問題の本質が見えてきます。
- メモを取る: 重要なポイントやキーワード、特に気になった感情や表現はメモを取ります。これにより、後で内容を見返すことができますし、真剣に聞いている姿勢を示すことにもなります。ただし、メモに集中しすぎて相手と目が合わない、という事態は避けます。
- 事実と感情を切り分ける: メンバーの話の中には、客観的な事実と、それに対する主観的な感情や解釈が混在しています。「実際に起きた出来事は何だったのか」「それに対して本人がどのように感じたのか」を冷静に整理します。例えば、「彼はいつも仕事を押し付けてくるんです」という言葉からは、「彼が特定頻度以上にある種のタスクを依頼しているという事実」と「それに対して負担や不満を感じているという感情」を切り分けます。
傾聴する際のよくある落とし穴(NG行動)と対策
はじめて傾聴を実践する際に陥りやすいNG行動とその回避策を知っておくことは、失敗を防ぐために有効です。
| NG行動 | なぜNGなのか | 回避策 | | :--------------------------------------- | :--------------------------------------------------------------------------- | :------------------------------------------------------------------------- | | 相手の話を遮って自分の意見を言う | メンバーは「聞いてもらえていない」と感じ、話す意欲を失います。 | 相手が話し終わるまで、最後まで聞くことに徹します。 | | すぐにアドバイスや解決策を提示する | メンバーは「共感してもらえなかった」「ただ解決策が欲しかったわけではない」と感じます。 | まずは「聞く」に徹し、共感を示すことを優先します。解決策の議論は、本音を聞き終えてから行います。 | | 相手の感情に引きずられて感情的に反応する | リーダーシップを失い、公平な立場で対応できなくなります。 | ステップ1で述べたように、自分の感情をコントロールすることを常に意識します。 | | 「でも」「いや」と否定から入る | 相手は反論されていると感じ、心を閉ざしてしまいます。 | まずは相手の意見を肯定的に受け止め、「なるほど」「そう感じられたのですね」と伝えます。 | | 決めつけや憶測で話をまとめようとする | メンバーは「分かってもらえていない」と感じ、不信感を抱く可能性があります。 | 分からない点や不明確な点は、決めつけず、具体的に質問して確認します。 |
まとめ
チームの衝突解決は、はじめてリーダーになる方にとって大きな課題の一つです。しかし、衝突を恐れる必要はありません。それはチームが抱える課題が顕在化した機会であり、適切に対応することで、チームをより強く、より信頼し合える状態に導くことが可能です。
その第一歩であり、最も強力なツールとなるのが「傾聴力」です。今回解説したステップを参考に、ぜひメンバーの話に耳を傾け、その本音を理解することから始めてみてください。
傾聴は、一夜にして完璧になるものではありません。日々のコミュニケーションの中で意識し、実践を繰り返すことで徐々に磨かれていきます。まずは身近なメンバーとの会話で試してみることから始めても良いでしょう。
メンバーの本音を理解できたとき、あなたは衝突解決の糸口を見つけ、より建設的な解決への道を歩み始めることができるはずです。自信を持って、一歩ずつ進んでいきましょう。