はじめての衝突解決:異なる価値観・ワークスタイルのメンバー対立を解決するステップ
チームリーダーとして、チーム内の多様性は大きな力となります。しかし、その多様性がときに異なる価値観やワークスタイル間の衝突を生み出す原因となることもあります。初めてリーダーになった方にとって、このようなメンバー間の対立にどのように対応すれば良いのか、不安を感じるかもしれません。
感情的にならず、公平に、そして建設的に衝突を解決するためには、基本的なステップを踏むことが重要です。この記事では、異なる価値観やワークスタイルに起因する衝突に焦点を当て、その解決に向けた具体的なステップを解説します。
なぜ価値観やワークスタイルの衝突が起こるのか
チームには様々な背景を持つメンバーが集まります。それぞれがこれまでの経験や考え方に基づいて、「仕事はこう進めるべきだ」「これが効率的だ」といった独自の価値観や、集中できる時間帯、コミュニケーションの好みなどのワークスタイルを持っています。
これらの違いが、以下のようなシチュエーションで表面化し、衝突に発展することがあります。
- 仕事の進め方: 細部まで計画を立ててから実行したいメンバーと、まずは実行しながら調整したいメンバー
- コミュニケーション: 報連相を密に行いたいメンバーと、要点だけを伝えたいメンバー
- 時間管理: 定時退社を重視するメンバーと、納得いくまで残業を厭わないメンバー
- 情報共有: 全員に常に情報を共有したいメンバーと、必要な人にだけ適宜伝えたいメンバー
これらの衝突は、どちらかが一方的に間違っているわけではなく、単に「やり方」や「考え方」が違うことから生じます。リーダーには、これらの違いを理解し、チームとして共通認識を持つための橋渡し役が求められます。
異なる価値観・ワークスタイル対立を解決する基本ステップ
衝突解決のプロセスは、一般的にいくつかの段階を経て進みます。ここでは、価値観やワークスタイルに起因する衝突に特化したステップをご紹介します。
ステップ1:衝突の「表面」ではなく「背景」にある違いを理解する
メンバー間の対立が起きたとき、まず目に見える「行動」や「言葉」だけにとらわれず、その背後にあるそれぞれの「価値観」や「ワークスタイル」に思いを馳せることが重要です。
例えば、「〇〇さんはいつも締め切りギリギリまで作業している」という表面的な行動の背景には、「ギリギリまで考え抜くことで最善の成果を出したい」という価値観があるかもしれません。あるいは、「報告が遅い」という問題の背景に、「自分で判断できることはリーダーに報告する必要はない」というワークスタイルがある可能性も考えられます。
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具体的な行動:
- 当事者双方から、個別に話を聞く時間を設ける。
- 単に起きた出来事だけでなく、「なぜそうしたのか」「その行動で何を達成したかったのか」といった動機や考え方について質問する。
- 彼らの言葉や行動を、自身の価値観で評価せず、まずは「そういう考え方もあるのだな」と受け止める姿勢を持つ。
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注意点:
- この段階でどちらか一方に肩入れしたり、善悪を判断したりしないこと。
- あくまで情報収集と理解に努める段階であることを忘れない。
ステップ2:関係者それぞれの価値観・ワークスタイルを尊重し、本音を聞き出すための対話
ステップ1で得た理解をもとに、改めて当事者間(必要であればチーム全体)での対話の場を設定します。この際、リーダーは中立的な立場で、それぞれの意見や背景にある考え方を安全に表現できる場を作る役割を担います。
異なる価値観やワークスタイルを否定せず、「そういう考え方なのですね」「〇〇さんは、このように仕事を進めることで、△△という状態を目指しているのですね」のように、まずは相手の立場や意図を言葉にして返す「反射的傾聴」が効果的です。
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具体的な行動:
- 話し合いの冒頭で、「私たちは異なる考え方を持っているからこそ、新しいアイデアが生まれる。今日は、それぞれのやり方や考え方を理解し合い、どうすればチームとしてもっと協力できるか話し合いたい」など、対話の目的と前向きな姿勢を示す。
- 一方的な批判にならないよう、「私は〇〇さんの△△という行動について、このように感じています」のように、「I(アイ)メッセージ」で伝えることを促す。
- リーダー自身も、批判や否定の言葉は使わず、落ち着いたトーンで進行する。
- 沈黙が続いても焦らず、相手が考える時間を待つ。
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会話例(NG行動と良い例):
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NG行動(一方的な決めつけ): リーダー:「〇〇さん、あなたの仕事の進め方は遅すぎますよ。△△さんのように、もっと効率を考えてください。」 解説:相手の価値観を否定し、比較することで反発を招きやすい。
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良い例(背景理解と問いかけ): リーダー:「〇〇さん、△△さん、今日は少しお時間をいただき、お互いの仕事の進め方について話し合いたいと思います。〇〇さんは細部まで丁寧に作業を進めるスタイルで、品質を重視されているのですね。△△さんは、まずはスピードを重視して全体像を掴むスタイルで、効率を重視されていると理解しています。それぞれに良さがあると思いますが、お互いのやり方について、気づいたことや、こうだったらもっと協力しやすくなるというような考えはありますか?」 解説:それぞれのやり方を「理解している」と示し、否定せずに問いかけから対話を開始する。
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ステップ3:違いを認めつつ、共通の目標やルール設定の必要性を共有する
個々の価値観やワークスタイルを尊重しつつも、チームとして成果を出すためには、ある程度の共通認識やルールが必要であることをメンバーに理解してもらいます。目指すべき共通の目標や、チームとして大切にしたい価値観(例:期日を守る、情報共有は密に行うなど)を再確認する機会とします。
対立の原因となった具体的なシチュエーションを例に挙げ、「この出来事は、私たちの間で〇〇に関する考え方に違いがあったために起きたかもしれない。チームとして、この〇〇についてはどう考えていけば良いだろうか」のように、課題として共有します。
- 具体的な行動:
- チームやプロジェクトの目標、期限などを改めて共有する。
- 「これらの目標を達成するために、私たちの間の違いをどう乗り越えていけば良いか、一緒に考えたい」と呼びかける。
- 特定の価値観やワークスタイルを「正しい」とせず、あくまで「チームとして機能するために」という視点で議論を促す。
ステップ4:チーム全体の合意形成(異なるやり方をどう共存させるか)
このステップでは、それぞれの価値観やワークスタイルを尊重しつつ、共通の目標達成のために、どのような「歩み寄り」や「新しいルール」が必要かをチーム全体で話し合い、合意を形成します。
例えば、 * 情報共有の頻度や手段について、最低限のルールを決める。 * 作業の進捗報告の方法について、共通のフォーマットやタイミングを設定する。 * お互いのワークスタイルを理解し、協力するためにどのような配慮が必要か話し合う。
正解は一つではありません。チームの状況やメンバー構成に合わせて、柔軟な解決策を見つけることが重要です。
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具体的な行動:
- メンバーから解決策のアイデアを募る。(例:「この状況を改善するために、何か良いアイデアはありますか?」「こんなルールを作ってみたらどうでしょう?」)
- 出されたアイデアに対して、それぞれの立場から意見や懸念がないか確認する。
- 最終的に、チームとして「これならやってみよう」と思える解決策を合意形成する。(全員が100%満足するとは限らないことを理解する)
- 合意した内容は明確に文書化し、チーム全体で共有する。
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よくある落とし穴(NG行動と対策):
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NG行動(リーダーが一方的に決める): リーダー:「話し合った結果、今後から仕事の進捗は毎日午後3時にチャットで報告することにします。これは決定事項です。」 解説:メンバーの主体性を奪い、ルールへの納得感が得られず、形骸化しやすい。
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対策: リーダー:「皆さんからいくつかのアイデアが出ました。毎日午後3時に進捗を報告するというアイデア、これについて皆さんどう思いますか?懸念点や改善案があれば教えてください。」 解説:決定のプロセスにメンバーを巻き込み、意見を聞くことで納得感を高める。
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ステップ5:解決策の実行とフォローアップ(柔軟な運用と調整)
合意した解決策を実行に移します。そして、一度決めたら終わりではなく、その解決策がチームにとって機能しているか、定期的に確認し、必要に応じて調整することが不可欠です。
価値観やワークスタイルは固定されたものではなく、状況によって変化することもあります。また、導入した新しいルールが意図しない問題を引き起こす可能性もあります。チームの状況を常に観察し、メンバーからのフィードバックを受け入れ、柔軟に対応する姿勢を持ちましょう。
- 具体的な行動:
- 合意したルールや取り組みを一定期間試行する期間を設ける。
- 試行期間中、メンバーに「新しいやり方で困っていることはないか」「期待した効果は出ているか」など、個別に、あるいはチームとしてフィードバックを求める。
- フィードバックをもとに、解決策を微調整したり、必要であれば再検討の場を設けたりする。
- 解決策の実行を通じて、お互いの価値観やワークスタイルへの理解が深まった点などを、ポジティブにフィードバックする。
まとめ
初めてチームリーダーとして、異なる価値観やワークスタイルのメンバー間の衝突に直面することは避けられないかもしれません。しかし、それはチームが多様な視点を取り入れ、より強くなるための成長の機会でもあります。
大切なのは、衝突を恐れず、感情的にならずに、今回ご紹介したような基本的なステップを踏むことです。一人ひとりのメンバーの背景にある考え方を理解しようと努め、対話を通じて共通の目標に向けた建設的な方法を見つけ出すプロセスを導くことが、リーダーの役割です。
すぐに完璧にできる必要はありません。経験を重ねるごとに、メンバーの本音を聞き出す力、多様な意見をまとめ上げる力は必ず向上します。今回学んだステップを参考に、ぜひ目の前の衝突解決に取り組んでみてください。あなたの冷静で建設的な姿勢が、チームに安心感と成長をもたらすはずです。