はじめての衝突解決:解決策実行後のフォローアップと再発防止ステップ
衝突解決策を実行した後の大切なステップ
チーム内の衝突を解決するために話し合いを重ね、メンバー間の合意に基づいた解決策を実行に移したとします。これは素晴らしい一歩ですが、衝突解決はそこで終わりではありません。解決策が実行され、問題が本当に解消に向かっているのか、そして今後同様の衝突が再発しないように、リーダーは継続的なフォローアップを行う必要があります。
初めてチームリーダーになられた方にとって、「解決策を決めた後、何をすれば良いのか」「きちんと解決されたかどうかの見極め方」「また同じようなことが起こらないようにするにはどうすれば良いのか」といった疑問や不安が生じるかもしれません。
このセクションでは、衝突解決策を実行した後のリーダーの役割に焦点を当て、具体的なフォローアップの方法と、衝突をチームの成長に繋げるためのステップを解説します。
なぜ解決策実行後のフォローアップが重要なのか
解決策を実行した後のフォローアップは、以下の理由から非常に重要です。
- 解決策の定着: 解決策が一時的なものにならず、チームの習慣や仕組みとして根付いているかを確認するためです。
- 潜在的な問題の発見: 解決策を実行したことで、新たな問題やメンバーの新たな不満が生じていないかを確認するためです。
- 再発防止: なぜ衝突が起きたのか、解決策がどのように機能しているのかを分析し、同様の衝突が将来的に起きることを防ぐためです。
- チームの信頼構築: リーダーが問題を解決して終わりではなく、その後の状況も気にかけている姿勢を示すことで、メンバーからの信頼を得ることができます。
- チーム力の向上: 衝突から学んだ教訓をチーム全体で共有することで、チームの適応力や問題解決能力を高めることができます。
衝突解決策実行後の基本フォローアップステップ
ここでは、衝突解決策を実行した後にリーダーが取るべき具体的なフォローアップのステップを解説します。
ステップ1:実行状況の確認と小さなサインの見落とさない姿勢
解決策が計画通りに実行されているかを定期的に確認します。これは「監視」とは異なり、あくまで「サポート」と「状況把握」のための確認です。
- 確認方法:
- 解決策に関わる担当者や関係者に、現在の状況や進捗についてカジュアルに尋ねてみます。
- チーム全体のミーティングで、解決策の実行状況について軽く触れる機会を設けます。
- 日常のコミュニケーションの中で、メンバーの様子や発言から、解決策が機能しているかの小さなサイン(ポジティブな変化、あるいは小さな不満の兆候)を読み取ります。
- NG行動:
- 「あの件はどうなった?」「ちゃんとやってるのか?」と詰問するような口調になる。
- メンバーに「報告しろ」と一方的に指示するだけになる。
- 確認の際に、メンバーの表情や声のトーンなど、非言語的なサインを無視する。
- 良い例:
- 「〇〇さんが担当してくれている△△の件、どうですか?何か困っていることや、進める上で気になる点はありませんか?」と、サポートする姿勢で尋ねる。
- チーム全体の朝会などで「先日の話し合いで決めた新しいルールについて、皆さん何か気づいた点や、試してみて良かった点、難しかった点などがあれば教えてください」と、感想を求める形で状況を共有する場を作る。
ステップ2:メンバーからのフィードバック収集と本音への耳を傾け方
解決策について、メンバーがどう感じているか、他に懸念はないか、積極的にフィードバックを収集します。
- フィードバック収集の機会:
- 個別面談や1on1の機会を設けて尋ねる。
- カジュアルな雑談の中で、解決策に関する話題になった際にメンバーの反応を見る。
- チーム全体のミーティングの最後に「何か他に気になっていることはありませんか?」と広く意見を求める時間を作る。
- 収集するフィードバックのポイント:
- 解決策は機能しているか、期待通りの効果が出ているか。
- 解決策を実行する上で、新たな負担や問題は生じていないか。
- 衝突解決後も、チーム内の関係性や雰囲気について不安に感じていることはないか。
- NG行動:
- 「解決したよね?」「もう問題ないよね?」と結論を急かせるような質問をする。
- 否定的なフィードバックに対して、「でもそれは仕方ない」「頑張って慣れてほしい」などとすぐに反論したり、シャットアウトしたりする。
- フィードバックを聞いただけで、何も対応しない。
- 良い例:
- 「先日の〇〇さんの件、解決策を試してみて、率直にどう感じていますか?うまくいっている部分、少しやりづらい部分があれば、遠慮なく教えてください。より良くするために、皆さんの声を聞かせてほしいです。」と、改善に向けた建設的なフィードバックを促す。
- 「あの衝突の後、チームの雰囲気について、何か気になることはありませんか?皆さんにとって働きやすい環境でありたいと考えていますので、どんな些細なことでも構いません。」と、心理的な安全性に配慮した問いかけをする。
ステップ3:必要に応じた軌道修正と柔軟な対応
収集した情報やフィードバックに基づき、必要であれば解決策の軌道修正や改善を行います。最初の解決策が必ずしも完璧とは限りません。
- 軌道修正の判断:
- 解決策が期待通りの効果を生んでいない場合。
- 解決策によって新たな問題やメンバーの大きな負担が生じている場合。
- より効果的で現実的な代替案が見つかった場合。
- 対応方法:
- メンバーと再度話し合いの機会を設け、現状を共有し、軌道修正の必要性とその内容について合意形成を目指します。
- 解決策の一部を変更したり、一時的な対策を加えたりします。
- 場合によっては、解決策自体を見直すことも検討します。
- NG行動:
- 一度決めたことだからと、問題が生じても変更をためらう。
- 一部のメンバーの意見だけで勝手に解決策を変更する。
- 軌道修正の理由や内容をメンバーに十分に説明しない。
- 良い例:
- 「皆さんの声を聞いた結果、前回の解決策の〇〇の部分に課題があることが分かりました。この点について、皆で再度集まって、より良い方法を一緒に考えませんか。」と、課題認識と改善へのプロセスを共有する。
- 「まずは来週一週間だけ、この方法を試してみましょう。その結果を見て、また来週話し合い、継続するかどうか判断しましょう。」と、試験的な導入を提案し、柔軟な姿勢を示す。
ステップ4:解決策の定着と仕組み化
うまくいっている解決策については、それが一時的なもので終わらず、チームの標準的なやり方として定着するように促します。必要であれば、明文化したり、チェックリストに組み込んだりします。
- 定着の方法:
- 成功事例をチーム全体で共有し、その有効性を認識してもらう。
- 新しいルールやプロセスであれば、分かりやすい形で文書化し、いつでも参照できるようにする。
- 定期的なミーティングで、新しいやり方が習慣になっているか確認する時間を設ける。
- NG行動:
- うまくいったことを放置し、自然に定着するだろうと期待するだけになる。
- 特定のメンバーだけが理解している状態にする。
- 定着のための努力を全く行わない。
- 良い例:
- 「皆さんの協力のおかげで、〇〇に関するコミュニケーションが非常にスムーズになりました。これは私たちのチームにとって大きな進歩です。この新しいやり方をチームの基本的な進め方として、共有フォルダの『チームルール』に追記しておきましょう。」と、成果を称賛しつつ仕組み化を進める。
衝突からチームの学びを引き出す
衝突はネガティブな出来事として捉えられがちですが、適切に対応し、そこから学ぶことで、チームはより強固になることができます。リーダーは、衝突解決のプロセス全体をチームの学びの機会と捉える視点を持つことが重要です。
- なぜ衝突から学ぶのか:
- チーム内の潜在的な課題や改善点を浮き彫りにするため。
- メンバーがお互いの価値観や考え方への理解を深めるため。
- チームのコミュニケーション能力や問題解決能力を高めるため。
- 将来の衝突を予防するための知見を得るため。
- 学びを引き出すための具体的なアクション:
- 振り返りの実施: 衝突解決プロセスが一段落したタイミングで、チーム全体で振り返りの時間を設けます。
- 「今回の衝突はなぜ起きたのか?」
- 「解決策を実行してみて、どうだったか?」
- 「プロセスの中で、うまくいった点、いかなかった点は何か?」
- 「この経験から、次に同じような状況になったらどう対応するか?」
- 「今回の件で、チームとして、個人として、何を学んだか?」 といった問いかけをします。
- 学びの共有と記録: 振り返りで得られた学びや教訓をチーム内で共有し、必要であればチームのナレッジとして記録しておきます。これにより、新しいメンバーにも経験が継承されます。
- 予防策への反映: 衝突の原因や解決策から得られた学びを、チームのルール、プロセス、コミュニケーション方法などの改善に活かします。
- 振り返りの実施: 衝突解決プロセスが一段落したタイミングで、チーム全体で振り返りの時間を設けます。
よくある落とし穴と対策
初めて衝突解決後のフォローアップを行うリーダーが陥りがちな「落とし穴」と、その対策を紹介します。
- 落とし穴1:解決したと思って安心してしまい、フォローアップを忘れる
- 対策: 解決策実行後、いつ、誰が、何をフォローアップするかを具体的に決め、リマインダーを設定するなど、計画的にフォローアップを行う仕組みを作ります。
- 落とし穴2:メンバーの実行状況を「チェック」「監視」するような態度になる
- 対策: フォローアップは「サポート」「状況把握」「共に改善する」という姿勢で行います。メンバーのプライバシーに配慮し、信頼関係を損なわないコミュニケーションを心がけます。
- 落とし穴3:問題が生じても軌道修正をためらう
- 対策: 最初の解決策が完璧でなくても良い、という柔軟な考え方を持つことが大切です。問題が小さいうちに早めに手を打つ方が、後々大きな問題になるのを防げます。状況の変化に合わせて計画を修正することは、優れたリーダーシップの証です。
- 落とし穴4:振り返りを形式的に済ませてしまう
- 対策: 振り返りの目的をチーム全体で共有し、心理的に安全な環境で率直な意見交換ができる雰囲気を作ります。「誰かを責める場ではない」ことを明確に伝えます。振り返りの時間をしっかりと確保し、得られた学びを具体的な行動計画に繋げます。
まとめ:フォローアップはチームを未来へ導く羅針盤
衝突解決策の実行はゴールではなく、新たなスタートです。リーダーが行う丁寧なフォローアップと、衝突からの学びを引き出す取り組みは、チームが同じ問題を繰り返さないための「再発防止」であると同時に、チームの絆を深め、課題解決能力を高め、未来に向けた成長を促すための重要なプロセスです。
初めてのチームリーダーとして、衝突解決後のフォローアップに難しさを感じることもあるかもしれません。しかし、メンバーの状況を気遣い、共に改善策を考え、衝突から学びを得ようとするリーダーの真摯な姿勢は、必ずチームからの信頼に繋がります。
今回ご紹介したステップを参考に、ぜひ実践してみてください。一歩ずつ着実にフォローアップを進めることで、チームはより強く、しなやかになっていくはずです。