はじめての衝突解決:合意した解決策が実行されない?チームに浸透させるステップ
解決策への合意はゴールではない
チーム内の衝突が発生し、話し合いを経てメンバー間で解決策に合意できたとき、リーダーとして大きな達成感を感じることでしょう。しかし、残念ながら、その合意された解決策が必ずしもスムーズに実行され、チーム全体に浸透するとは限りません。
「話し合いであんなに盛り上がったのに、なぜ誰もやらないのだろう」 「決まったはずなのに、また同じ問題が起きている」
このように感じた経験は、初めてチームリーダーになった方にとっては特に戸惑いやすい状況かもしれません。衝突解決のプロセスにおいて、解決策への「合意」は重要なステップですが、それはまだ通過点の一つです。合意内容をチームに浸透させ、実際に現場で実行されるように導くことこそが、リーダーの次の重要な役割となります。
この記事では、なぜ合意したはずの解決策が浸透しにくいのか、その原因を探り、初めてのリーダーでも実践できる、解決策をチームにしっかりと浸透させるための具体的なステップを解説します。
なぜ合意した解決策が浸透しないのか?考えられる原因
解決策がチームに浸透しない背景には、いくつかの理由が考えられます。多くの場合、それはメンバーの意欲がないからという単純な理由だけではありません。
- 形式的な合意になっていた: 話し合いの場で本音を言い出せず、その場の空気に流されて「賛成」しただけかもしれません。あるいは、一部のメンバーの声が大きく、他のメンバーが納得できていないまま合意に至った可能性もあります。
- 解決策が抽象的、または実行方法が不明確: 「これからはもっと情報共有を密にしよう」「お互いを尊重しよう」といった抽象的な合意は、具体的な行動に結びつきにくいものです。誰が何を、いつまでに、どのように行うのかが明確でないと、メンバーは行動に移しづらくなります。
- 解決策への理解度や納得度に差がある: 全員が解決策の「なぜそれが必要なのか」「実行することで何が変わるのか」を十分に理解し、納得しているとは限りません。理解が浅いと、自分事として捉えられず、実行へのモチベーションが湧きにくくなります。
- 実行にかかる負荷への懸念: 解決策の実行によって、現状の業務に追加の負担が生じる、慣れない作業が増えるなど、メンバーが物理的・心理的な負担を感じている可能性があります。その懸念が解消されないままでは、積極的に取り組むことは難しいでしょう。
- 過去の感情的なしこりが残っている: 衝突の根本的な原因が感情的な部分にあった場合、解決策に合意したとしても、メンバー間の不信感やわだかまりが完全に解消されていない可能性があります。感情的なバリアが、解決策の円滑な実行を妨げることがあります。
- リーダーからの指示に聞こえている: いくら話し合いの成果だと伝えても、メンバーによっては「結局、リーダーが決めたことだ」と捉えているかもしれません。トップダウンの指示のように感じられると、主体性が生まれにくくなります。
これらの原因を踏まえ、リーダーは合意後のフォローアップとコミュニケーションを慎重に行う必要があります。
解決策をチームに浸透させるための具体的なステップ
合意された解決策を絵に描いた餅にせず、チームの力としていくためには、リーダーによる意図的な働きかけが不可欠です。ここでは、そのための具体的なステップをご紹介します。
ステップ1: 合意内容の「見える化」と「再確認」
話し合いで決まった解決策は、議事録として記録し、チーム全体で共有することが重要です。可能であれば、合意内容を箇条書きなどで明確にまとめ、誰が、何を、いつまでに、どのような状態にするのかを具体的に記述します。
- 目的: 合意内容の誤解を防ぎ、共通認識を持つため。
- 具体的な行動:
- 話し合い後、速やかに合意内容をまとめ、文書化する。
- まとめた内容をチームメンバーに共有し、全員が確認できるようにする。
- 必要であれば、共有した内容について短い時間で確認会を実施し、「認識にズレはないか」「不明確な点はないか」をメンバーに問いかける。
ステップ2: 解決策の「意義」と「意図」を繰り返し丁寧に伝える
解決策は単なる作業リストではありません。なぜこの解決策が必要なのか、チームが抱える課題とどのように繋がっているのか、そして実行することでチームやメンバーにどのようなメリットがあるのかを、様々な機会を捉えて繰り返し伝えましょう。
- 目的: メンバーが解決策の必要性を理解し、自分事として捉えるため。
- 具体的な行動:
- 定例会議などで、合意した解決策の進捗を確認する際に、「この解決策は、私たちが〇〇という課題を解決し、より効率的に△△を進めるために皆さんと一緒に考えたものです」といった言葉を添える。
- 個別の1on1ミーティングなどで、メンバーが抱える日々の業務と解決策の繋がりについて話す機会を持つ。
- 解決策実行による小さな変化や良い兆候が見られたら、積極的にチーム全体に共有し、解決策の意義を実感できるようにする。
ステップ3: 実行計画の詳細化と役割分担の明確化
抽象的な合意を、メンバーがすぐに取り組める具体的な行動計画に落とし込みます。誰が、具体的にどのようなタスクを行うのか、期日はいつなのか、必要なリソースはあるかなどを明確にします。可能であれば、この計画策定の一部をメンバーに任せることで、主体性を引き出すことができます。
- 目的: メンバーが迷わず行動に移せるようにするため。
- 具体的な行動:
- 合意内容に基づき、具体的なタスクリストを作成する。
- それぞれのタスクについて、担当者、期日、達成基準を設定する。
- タスクの実行に必要な知識やスキル、ツールなどがあれば、事前に準備したり、メンバーに提供したりする。
- 計画の策定や役割分担について、メンバーの意見を聞き、合意形成を図る場を持つ。
ステップ4: メンバーの懸念や不安に積極的に耳を傾ける
解決策の実行に対して消極的な態度や抵抗が見られるメンバーがいるかもしれません。それは単なる反対ではなく、実行に対する懸念や不安、あるいは過去のわだかまりが原因かもしれません。リーダーはこれらのサインを見逃さず、積極的にメンバーの声に耳を傾ける姿勢を示すことが重要です。
- 目的: メンバーが抱える障害や心理的な抵抗を理解し、解消に向けてサポートするため。
- 具体的な行動:
- チーム全体への声かけだけでなく、個別の対話の機会を持つ。
- 「この件について、何か不安な点や、進めにくいと感じていることはありますか」「もし率直な気持ちがあれば聞かせてほしいです」といった、オープンな質問をする。
- メンバーが話してくれた内容を否定せず、まずは共感的に受け止める(傾聴の姿勢)。
- 懸念が解消されない場合は、解決策の実行方法を見直したり、必要なサポートを提供したりすることを検討する。
ステップ5: 定期的なフォローアップと小さな成功の共有
解決策を実行に移した後は、その進捗を定期的に確認する場を持ちます。進捗が遅れているメンバーを問い詰めるのではなく、「何か困っていることはないか」「進める上で障害になっていることはないか」とサポートの姿勢で関わります。また、解決策の実行によって生まれた小さな良い変化や成功を積極的に見つけ出し、チーム全体で共有することで、ポジティブなムードを作り出すことが大切です。
- 目的: 解決策の実行を軌道に乗せ、メンバーのモチベーションを維持・向上させるため。
- 具体的な行動:
- 週次の定例会議などで、解決策に関する進捗報告やディスカッションの時間を設ける。
- 進捗が芳しくないメンバーに対しては、頭ごなしに叱責するのではなく、個別に状況をヒアリングし、一緒に解決策を考える。
- 「〇〇さんの取り組みのおかげで、△△がスムーズに進むようになりました」「今回の解決策で、無駄なコミュニケーションが減ったように感じますね」など、具体的な成功事例や良い変化を全体に共有し、メンバーの貢献を称賛する。
ステップ6: リーダー自身が率先垂範する
リーダー自身が解決策の実行に対して真剣に取り組み、率先して行動を示すことは、チームメンバーにとって非常に大きな影響を与えます。リーダーが「言っているだけ」では、メンバーは本気で取り組む気になれません。
- 目的: リーダーのコミットメントを示すことで、チーム全体の実行への意識を高めるため。
- 具体的な行動:
- 解決策に関連する自身のタスクがあれば、責任を持って遂行する。
- 実行プロセスで生じた課題や気付きをチームに共有する。
- メンバーの取り組みを積極的にサポートし、実行を後押しする姿勢を示す。
具体的な会話例とNG行動
| 状況 | NG行動 | OK行動 | | :-------------------------- | :--------------------------------------------------------------------- | :----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- | | 合意内容の再確認時 | 「この前決まったこと、ちゃんと覚えていますね?じゃあ、次〇〇さんから報告してください」 | 「皆さん、先日話し合った〇〇の解決策について、改めて内容を確認したいと思います。お手元に議事録はありますでしょうか。もし、内容について少しでも不明確な点があれば、この場で確認させてください。」 | | メンバーの進捗が遅れている時 | 「〇〇さん、全然進んでないじゃないですか!どうなっているんですか!」 | 「〇〇さん、〇〇の件、状況はいかがですか?何か進める上で困っていることや、手助けが必要なことはありますか。もし難しければ、一緒に方法を考えましょう。」 | | メンバーが消極的な時 | 「やる気がないなら、もういいです」 | 「△△さん、〇〇の解決策について、少し消極的に見えますが、何か懸念していることや、率直な気持ちがあれば聞かせてもらえませんか。皆さんの声を聞きたいです。」 | | 解決策の意義を伝える時 | 「これは会社が決めた方針だから従ってください」 | 「この解決策は、以前から課題となっていた△△を解決し、皆さんがより気持ちよく、スムーズに仕事を進めるために、話し合って決めたものです。実行することで、具体的に〇〇のような効果が期待できます。」 |
よくある落とし穴と対策
- 落とし穴1: 合意形成できたことで安心してしまい、その後のフォローアップが不足する
- 対策: 合意形成と同時に、その後の実行・浸透のための計画(誰が、何を、いつやるか、どう進捗を確認するかなど)も立てておく。
- 落とし穴2: 解決策の実行が、リーダーからの一方的な指示になってしまう
- 対策: 解決策はあくまでチームの話し合いの成果であることを強調し続ける。実行計画の詳細化や役割分担にも、可能な範囲でメンバーの意見を反映させる。
- 落とし穴3: メンバーの抵抗や消極的な態度を、単なる反発や怠慢と捉えてしまう
- 対策: 感情的にならず、相手の言動の背景にある理由や懸念を丁寧にヒアリングする。抵抗は、解決策が抱える課題や、メンバーが抱える不安を教えてくれるサインと捉える。
- 落とし穴4: 解決策がうまくいかないことを、特定のメンバーの責任にしてしまう
- 対策: 問題が発生した場合、それはチーム全体、あるいは解決策自体に改善の余地があると考え、誰かを責めるのではなく、チームとしてどのように乗り越えるかを話し合う。
まとめ:根気強い対話とサポートの姿勢が鍵
チームの衝突解決において、解決策への合意は確かに重要な一歩です。しかし、その後の「浸透」と「実行」のプロセスは、時に合意形成そのものよりも難しく、根気を要するものです。
合意した解決策がスムーズに実行されない場合でも、それは決してリーダーの失敗ではありません。チームが新たな変化に適応していく過程で自然に生じる抵抗や摩擦であると捉え、冷静に対応することが大切です。
今回ご紹介したステップを参考に、合意内容の見える化、意義の伝達、実行計画の詳細化、そして何よりもメンバーの懸念に耳を傾け、継続的にサポートする姿勢を持ち続けてください。リーダーの根気強い対話と寄り添う姿勢こそが、解決策をチームに浸透させ、チームを前に進める何よりの力となるはずです。初めてのリーダーとして直面するこの課題を乗り越えることは、あなたのリーダーシップを大きく成長させる貴重な経験になるでしょう。