はじめての衝突解決：チームで解決策の選択肢を生み出し、最適な案を選ぶステップ
チーム内で意見の対立や衝突が発生した際、原因を特定し、メンバーの本音を聞き出すことができたら、次はいよいよ具体的な解決策を考えるフェーズに入ります。この段階は、衝突を乗り越え、チームを前に進めるための最も重要なプロセスのひとつです。
しかし、初めてリーダーを経験する方にとって、「どうすればチーム全体で良いアイデアが出せるのか」「どの解決策を選ぶべきなのか」「メンバー全員が納得できる決め方はあるのか」といった疑問や不安が生じるかもしれません。
この記事では、チームリーダーが衝突の解決策を見つけ、実行可能な最適な案をチームと共に選び取るための、具体的なステップを解説します。これらのステップを理解し実践することで、衝突解決の次のフェーズへ自信を持って進めるようになるでしょう。
なぜチームで解決策を見つけるプロセスが重要なのか
衝突解決において、リーダーが一人で解決策を考え、指示するという方法は避けるべきです。その理由は以下の通りです。
- 納得感の不足: リーダーが一方的に決めた解決策は、メンバーの納得が得られにくく、実行への協力を得られない可能性があります。
- 盲点: リーダー一人の視点では見つけられない、チームメンバーだからこそ気づける効果的なアイデアが存在します。
- 成長の機会損失: チームメンバーが解決策を考えるプロセスに参加することで、問題解決能力や主体性が育まれます。
- 関係性の悪化: 一方的な決定は、リーダーとメンバー間の信頼関係を損なう恐れがあります。
チーム全体で解決策を検討するプロセスは、単に問題を解決するだけでなく、チームのエンゲージメントを高め、将来の衝突予防にも繋がります。リーダーの役割は、答えを出すことではなく、チームが最も良い答えを見つけられるようガイドすることです。
解決策を見つけ、選ぶための基本ステップ
ここでは、衝突解決の次の段階として、チームで解決策のアイデアを出し、最適な案を選ぶための具体的なステップを解説します。
ステップ１：解決策のアイデアを多様な視点から引き出す（ブレインストーミング）
原因が特定できたら、次は具体的な解決策のアイデアを、できるだけ多く集めます。この段階では、アイデアの質よりも量を重視し、自由な発想を促すことが大切です。
- 目的: チームメンバー全員から、多角的な視点に基づいた多様な解決策のアイデアを収集する。
- 具体的な行動:
- 安心できる場を作る: どんなアイデアでも否定されない雰囲気であることを改めて伝えます。
- ルールの確認: ブレストの基本ルール（批判しない、自由に発想する、質より量、他の人のアイデアに便乗・発展させる）を共有します。
- 問いかけ: 衝突の原因や状況を踏まえ、「この状況を解決するために、どのような方法が考えられますか？」「何かできそうなことはありますか？」といった開かれた問いかけをします。
- 全員参加を促す: 発言が少ないメンバーにも「何かアイデアはありますか？」と声をかけたり、付箋に書き出す形式を取り入れたりして、全員が参加できる工夫をします。
- NG行動:
- 出たアイデアに対して「それは難しいね」「現実的じゃない」などとすぐに評価や否定をすること。
- リーダーや一部のメンバーだけが話し、他のメンバーが黙ってしまう状況を放置すること。
- リーダーが最初に自分の考えた解決策を示し、それに沿ったアイデアしか出ないように誘導すること。
- 会話例（良い例）：
- リーダー：「原因については共通認識が持てたかと思います。次に、この状況を改善するために、どんな方法があるか、皆さんでアイデアを出してみましょう。ここでは良い悪いは一旦考えず、思いつくことを自由に話してください。〇〇さん、何かありますか？」
- リーダー：「〇〇さんがおっしゃったアイデア、良いですね。それに加えて、もし別のやり方があるとしたら、どんなことが考えられますか？」
- 会話例（NG例）：
- リーダー：「原因は△△でしたね。で、解決策としては、やっぱり□□するしかないと思うんですが、どうですか？他にアイデアありますか？」（最初にリーダーの考えを示してしまう）
- メンバーＡ：「こういう方法はどうでしょうか？」リーダー：「うーん、それはちょっとコストがかかりすぎるんじゃないかな。」（すぐに否定してしまう）
ステップ２：出たアイデアを整理し、全体像を共有する
集まったアイデアを、チーム全体で見える形に整理します。これにより、アイデア間の関連性や、共通する方向性が見えやすくなります。
- 目的: 出されたアイデアを分かりやすく分類・整理し、議論の土台を作る。
- 具体的な行動:
- 見える化: ホワイトボードや大きな紙、オンラインツールなどを使用し、出たアイデアを全て書き出します。付箋を使うと、後で移動やグルーピングがしやすくなります。
- グルーピング: 類似するアイデアや、同じ方向性を持つアイデアをグループにまとめます。
- ラベリング: 各グループや大きな方向性に名前を付けたり、キーワードを添えたりします。
- NG行動:
- アイデアを整理せずに、すぐに評価や絞り込みに進んでしまうこと。
- リーダーや一部の人が、勝手にアイデアの解釈や分類を進めてしまうこと。
ステップ３：解決策を評価し、現実的な選択肢に絞り込む
整理されたアイデアの中から、今回の衝突解決に最も効果的で、かつ実現可能な解決策を絞り込んでいきます。
- 目的: 事前に定めた基準に基づき、各アイデアの実現可能性や効果を評価し、現実的な案を選び出す。
- 具体的な行動:
- 評価基準の合意: 何を基準に解決策を選ぶかを明確にします。（例：実現可能性、効果の大きさ、コスト、時間、メンバーへの影響、リスクなど）この基準は、衝突の状況やチームの状況に合わせて、チームメンバーと合意形成しておくことが望ましいです。
- 各アイデアの検討: 各アイデア（またはアイデアのグループ）について、合意した評価基準に照らして、メリット・デメリットや懸念点をチームで議論します。
- 絞り込み: 議論の結果を踏まえ、現実的かつ効果が期待できるいくつかの選択肢に絞り込みます。この際、多数決ではなく、可能な限り対話を通じて共通認識を深めることを目指します。
- NG行動:
- 明確な基準がないまま、感覚的に「良い」「悪い」で判断すること。
- 特定のメンバーの意見や立場に強く影響されて、評価が偏ること。
- デメリットやリスクの検討が不十分なまま、勢いで決めてしまうこと。
- 議論を尽くさずに、安易に多数決で決めてしまうこと。
- 会話例（良い例）：
- リーダー：「では、整理したアイデアの中から、評価基準（実現可能性、効果、コスト）に照らして、いくつか絞り込んでいきましょう。まず、このアイデアのメリットとデメリットは何でしょうか？」「評価基準の『実現可能性』の観点では、どう考えられますか？」
- リーダー：「いくつかのアイデアに絞られてきましたね。この3つの案について、懸念点や、実行するために必要なことを話し合ってみましょう。」
- 会話例（NG例）：
- リーダー：「このアイデアが一番良さそうですね。これで行きましょう。」（一方的に決めてしまう）
- リーダー：「どれが良いか迷いますね。手を挙げて決めましょう。」（議論なしに多数決で決定しようとする）
ステップ４：最適な解決策を決定し、合意形成を図る
絞り込んだ選択肢の中から、最終的に実行する解決策を決定します。この際、単に決定するだけでなく、チームメンバー全員がその決定に納得し、協力する意思を持てるような合意形成を図ることが重要です。
- 目的: チームにとって最も効果的で実行可能な解決策を決定し、メンバーの合意とコミットメントを得る。
- 具体的な行動:
- 最終案の確認: 最終的に残った案について、改めて内容と期待される効果、懸念点などをチーム全体で確認します。
- 合意形成のための対話: 決定案に対するメンバーの率直な意見や感情を改めて聞き、不安や懸念が残っている場合は解消に努めます。全員が「この案で進めてみよう」と思える状態を目指します。
- 決定の宣言: チームの合意が得られたことを確認し、決定した解決策を明確に宣言します。
- NG行動:
- 一部のメンバーが反対や懸念を示しているにも関わらず、そのまま決定してしまうこと。
- 決定しただけで満足し、誰がいつ何をするかなどの次のステップに触れないこと。
- 会話例（良い例）：
- リーダー：「議論の結果、今回はこの解決策で進めていくのが最善という結論に至ったかと思います。皆さん、この決定について、改めて何か気になる点や、懸念していることはありますか？」「皆さんから賛成の意見をいただけたので、今回はこの解決策で進めたいと思います。実行に向けて、皆さんの協力をよろしくお願いします。」
- 会話例（NG例）：
- メンバーＢ：「この案だと、私たちの負担が増えるだけな気がするのですが…」リーダー：「まあ、それはやってみないと分からないから。決定ね。」（懸念点を無視する）
よくある落とし穴とその対策
解決策を見つけ、選ぶプロセスで初めてリーダーが陥りやすい落とし穴とその対策を知っておきましょう。
- 落とし穴：アイデアが全く出ない、または一部の意見に偏る
- 対策:
- 事前に衝突の背景や原因について、メンバーが十分に理解できているか確認します。
- ブレストのルールを徹底し、心理的安全性が確保されている場であることを保証します。
- 発言しやすいように、書面でのアイデア提出や少人数でのグループワークを取り入れるなどの工夫をします。
- リーダーが特定の方向へ誘導せず、多様なアイデアを歓迎する姿勢を明確に示します。
- 対策:
- 落とし穴：議論が感情的になり、解決策の検討が進まない
- 対策:
- 議論の目的が「最適な解決策を見つけること」であることを繰り返し伝えます。
- 個人的な攻撃ではなく、問題そのものやアイデアの内容に焦点を当てるよう促します。
- 感情的になっているメンバーがいれば、一旦休憩を挟む、後で個別に話を聞くなどの配慮を行います。
- リーダー自身が常に冷静で中立的な態度を保ち、場の雰囲気を落ち着かせます。
- 対策:
- 落とし穴：決定した解決策に対して、後から不満が出る
- 対策:
- 決定プロセスに全員が参加し、意見を言える機会があったことを確認します。
- 決定基準を明確にし、なぜその解決策を選んだのかを論理的に説明できるようにします。
- 決定案に対する懸念点を事前にしっかりと聞き出し、可能な限り解消しておきます。
- 決定した内容と、その決定に至った経緯を明確に記録し、共有します。
- 対策:
まとめ
チーム内の衝突において、メンバーと共に解決策を見つけ出し、最適な案を選び取るプロセスは、リーダーにとって重要なスキルです。このプロセスは、単に問題を解決するだけでなく、チームメンバーの主体性や問題解決能力を育み、チーム全体の成長を促す機会となります。
今回ご紹介したステップ（アイデア出し、整理、評価・絞り込み、決定・合意形成）は、初めてリーダーを経験する方でも実践しやすい基本的な手順です。最初は戸惑うことがあるかもしれませんが、場数を踏むごとにチームの協力的な姿勢を引き出し、より良い解決策を生み出せるようになるでしょう。
リーダーの役割は、答えを与えることではなく、チームが自ら答えを見つけられるようにサポートすることです。メンバーの多様な視点を尊重し、建設的な対話を促すことで、衝突をチームを強くする機会に変えることができるはずです。ぜひ、今回学んだステップを参考に、チームでの解決策検討に挑戦してみてください。