はじめての衝突解決:決まった解決策に「抵抗するメンバー」への具体的な対応ステップ
チーム内で意見の対立が起きた際、話し合いを通じて解決策を見つけ、合意形成に至ることは非常に重要です。しかし、難しいのは、合意したはずの解決策をいざ実行しようとした時に、特定のメンバーが抵抗したり、非協力的な態度をとったりする場合です。
初めてチームリーダーになった方にとって、こうした状況は想定外かもしれません。「せっかく決めたのに、なぜ協力してくれないのだろう」と戸惑い、どのように対応すれば良いか分からなくなることがあります。感情的に対応してしまうと、事態はさらに悪化する可能性もあります。
ここでは、合意された解決策に対するメンバーの抵抗や非協力的な態度に、チームリーダーとして冷静かつ効果的に対応するための基本的なステップを解説します。このステップを理解し、実践することで、チーム全体の協力を引き出し、問題を前進させることができます。
なぜ、決まった解決策にメンバーが抵抗するのか
解決策がチーム内で合意されたにも関わらず、メンバーが抵抗を示す背景には、いくつかの理由が考えられます。
- 納得感の不足: 表面的な合意はしたが、実は心から納得できていない。
- 懸念や不安: 解決策を実行することによる個人の負担増や、想定される困難への不安がある。
- 変化への抵抗: 新しいやり方への慣れ、現在の方法への愛着がある。
- コミュニケーション不足: 決定プロセスで自分の意見が十分に聞かれなかったと感じている。
- 過去の経験: 以前に同様の試みが失敗した経験があり、懐疑的になっている。
- 個人的な不満: 解決策自体ではなく、別の個人的な不満やリーダーへの不信感がある。
これらの背景を理解しようとする姿勢が、最初の重要な一歩となります。
決まった解決策に抵抗するメンバーへの基本対応ステップ
チームリーダーが、合意された解決策へのメンバーの抵抗に対応するためのステップを解説します。
ステップ1:抵抗の兆候に気づく
まず、メンバーの抵抗や非協力的な態度に早期に気づくことが大切です。以下のような兆候がないか、日頃から観察するように努めます。
- 解決策に関するタスクの進捗が遅れている
- 会議中に解決策に対して消極的な発言が多い、あるいは沈黙している
- 解決策について質問しても明確な答えが得られない
- 解決策の実行に関して、繰り返し否定的なコメントをする
- 他のメンバーに解決策への不満を漏らしている
こうした兆候が見られたら、すぐに状況を把握するための次のステップに移ります。
ステップ2:抵抗の背景を理解するための個別対話を設定する
抵抗の兆候が見られたメンバーに対し、まずは個別で話をする機会を設けます。これは、チーム全体の前では話しにくい本音を引き出すためです。
個別対話のポイント:
- 目的の明確化: 「解決策の実行について、あなたの考えや懸念を聞かせてもらいたい」など、対話の目的を率直に伝えます。
- 安心できる場作り: 落ち着いて話せる場所と時間を確保し、メンバーが話しやすい雰囲気を作ります。
- 非難しない: 相手の態度を非難するのではなく、純粋に状況を理解しようとする姿勢を示します。
ステップ3:メンバーの懸念を傾聴し、本音を聞き出す
個別対話では、メンバーの話をじっくりと聞くことに集中します。なぜその解決策に抵抗があるのか、どのような点に懸念や不安を感じているのか、本音を引き出すことを目指します。
具体的な会話例(良い例):
- リーダー:「〜さん、先日の会議で決まった〇〇の件について、少しお話しできますか。何か心配なことや、進め方で気になる点はありますか。」(相手の状況を尋ねる)
- リーダー:「話してくれてありがとうございます。具体的に、どの点が特に難しそうだと感じますか。」(懸念点を具体的に尋ねる)
- リーダー:「なるほど、△△の点が不安なのですね。それは重要な懸念だと思います。他には何かありますか。」(共感と掘り下げ)
- リーダー:「つまり、この新しい方法に慣れるのに時間がかかるのではないか、という点が最も懸念なのですね。その点について、もう少し詳しく聞かせてもらえますか。」(理解の確認と深掘り)
避けるべき会話例(悪い例):
- リーダー:「なぜ〇〇の件、全然進んでないの。やる気がないのか。」(非難、一方的な決めつけ)
- リーダー:「決まったことなんだから、あれこれ言わずにやってください。」(指示命令、傾聴しない)
- リーダー:「△△が不安?そんなの考えすぎだよ。」(相手の懸念を軽視)
このステップでは、相手の言葉の背景にある感情や価値観にも耳を傾け、共感的な姿勢を示すことが信頼関係を築く上で重要です。
ステップ4:理解した懸念に対し、解決策の意義やサポートを伝える
メンバーの懸念を十分に理解したら、それに対するリーダーの考えや、解決策の意義を改めて伝えます。ただし、一方的に説得するのではなく、共有された懸念を踏まえた上で、どのように協力できるかを話し合います。
具体的な働きかけ:
- 懸念への理解を示す: 「△△の点が不安だという気持ち、よく分かりました。」と、まずは相手の感情や懸念を受け止めたことを伝えます。
- 解決策の目的とメリットを再説明: なぜこの解決策が必要なのか、これが達成されるとチーム全体や個人にどのようなメリットがあるのかを、共有された懸念を踏まえて丁寧に説明します。「△△のような不安はあるかもしれませんが、この解決策によって将来的には〇〇が改善され、結果として△△の負担も軽減されると考えています。」のように、相手の懸念と関連付けて説明します。
- 具体的なサポートを提案: 不安を解消するために、リーダーとして、あるいはチームとしてどのようなサポートができるかを具体的に提案します。(例: 「新しいツールに慣れるまで、まずは私がつきっきりでサポートします」「他のメンバーで詳しい人に教えてもらう機会を設けましょう」「最初は一部の業務から試してみましょう」など)
- 懸念を踏まえた調整の可能性: 解決策の根幹を変えずに、懸念を解消するための実行方法の微調整が可能かどうかを検討します。
ステップ5:協力に向けた具体的な行動を合意する
懸念に対する話し合いとサポートの提案を行った後、メンバーが具体的にどのように解決策の実行に関わるかについて、合意形成を目指します。
合意形成のポイント:
- 小さな一歩から: いきなり全面的協力を求めるのではなく、まずは小さく始められるタスクや役割を提案し、成功体験を積んでもらうことを目指します。
- 役割の再定義: そのメンバーのスキルや経験を活かせる形で、解決策実行における役割を再定義することも有効です。
- 進捗確認とフィードバック: 合意した内容について、定期的に進捗を確認し、困っていることがないか、懸念は解消されたかを丁寧に確認します。
ステップ6:チーム全体への影響を考慮した対応を行う
特定のメンバーとの個別対話で得られた気づきや合意事項は、必要に応じてチーム全体にも共有し、解決策の実行体制を強化します。個別の懸念が他のメンバーにも共通している可能性もあります。
また、個別のメンバーに過度に配慮した結果、チーム全体の士気が下がったり、不公平感が生まれたりしないよう注意が必要です。
よくある落とし穴(NG行動)とその回避策
初めてリーダーが陥りやすい、抵抗するメンバーへのNG行動と、その回避策を解説します。
| NG行動 | なぜNGなのか | 回避策 | | :--------------------------------------- | :----------------------------------------------- | :--------------------------------------------------------------------- | | 感情的に反論する、一方的に従わせようとする | メンバーの反発を招き、関係性が悪化する | 冷静さを保ち、まずは相手の言い分を聞く姿勢を示す | | 抵抗の背景や理由を聞かずに決めつける | 問題の根本原因を見誤り、的外れな対応をしてしまう | 個別対話の機会を設け、なぜ抵抗するのか、その理由や懸念を丁寧に聞き出す | | メンバーの懸念を軽視したり、否定したりする | メンバーは「理解してもらえなかった」と感じ、心を閉ざす | 「なるほど」「そういう考え方もあるのですね」と、まずは相手の言葉を受け止める | | 他のメンバーの前で叱責する | 本人の自尊心を傷つけ、チームの雰囲気を悪化させる | 必ず個別で、人目のない場所で話をする | | 約束したサポートやフォローをしない | リーダーへの信頼を失い、さらなる非協力につながる | 約束したことは必ず実行し、定期的に声かけを行う |
まとめ:抵抗を乗り越え、チームを前進させるために
チームで決めた解決策に対するメンバーの抵抗は、初めてリーダーになった方にとって難しい状況かもしれません。しかし、これはメンバーが抱える懸念やチームの課題を理解するための貴重な機会でもあります。
感情的にならず、今回解説した基本ステップ、特に「抵抗の背景を理解するために傾聴する」プロセスを丁寧に踏むことが、解決への鍵となります。メンバーの懸念に寄り添い、対話し、具体的なサポートを提案することで、抵抗を協力に変え、チーム全体で解決策を実行していく力を高めることができます。
困難に直面した時こそ、リーダーとして冷静に状況を分析し、粘り強くメンバーと向き合う姿勢が求められます。この経験を通じて、あなたはチームリーダーとしてさらに成長することができるでしょう。