はじめての衝突解決:決定した解決策をチームに共有し、実行へつなげるステップ
チーム内の衝突を解決するための話し合いを経て、解決策が決定したとします。しかし、解決策を決めただけで、衝突解決のプロセスが完了したわけではありません。決定した解決策をチーム全体に正確に共有し、メンバーがその内容を理解し、納得して、実際の行動に移せるように導くことが、リーダーにとって非常に重要です。
このステップが適切に行われなければ、せっかく話し合いで決めたことが形骸化したり、新たな不満や衝突の原因になったりする可能性もあります。初めてチームリーダーとなり、衝突解決の経験が少ない方にとって、この「決定事項の共有と実行促進」は、どのように進めれば良いのか迷うポイントかもしれません。
この記事では、決定した解決策をチームに共有し、実行へスムーズにつなげるための基本的なステップと、実践で役立つポイント、よくある落とし穴とその回避策について解説します。
なぜ決定事項の共有と実行促進が重要なのか
衝突解決の話し合いは、特定のメンバー間やチーム全体で意見の対立や問題を解消するために行われます。その場では合意が形成されたとしても、話し合いに参加していなかったメンバーへの共有が不十分であったり、参加者自身も決定内容を完全に腹落ちできていなかったりすると、実行段階で様々な問題が生じます。
- 実行の遅延や放棄: 決定内容が曖昧だったり、実行責任者が不明確だったりすると、誰も行動を起こさず、解決策が実行されないままになります。
- 新たな不満の発生: なぜその解決策になったのかの背景や意図が共有されないと、「勝手に決められた」「自分たちの意見が反映されていない」といった不満が生じます。
- 再度の衝突: 解決策の誤解や認識のずれから、再びメンバー間で意見の対立が起こることがあります。
- 信頼関係の低下: リーダーが決定事項を適切に伝えられないことで、チームからの信頼を失う可能性があります。
これらの問題を避けるために、決定した解決策を効果的に共有し、実行へつなげるための丁寧なプロセスが不可欠です。これは、リーダーの重要な役割の一つです。
決定した解決策をチームに共有し、実行へつなげるための基本ステップ
ここでは、衝突解決の話し合いで決定した解決策を、チーム全体に共有し、実行までを促進するための具体的なステップを解説します。
ステップ1:決定事項と背景を明確に整理する
話し合いが終わった直後に、決定した解決策の内容、その解決策に至った経緯、話し合いで出た意見、なぜその解決策が選ばれたのか(他の選択肢がなぜ選ばれなかったのかなど)を、リーダー自身が正確に整理します。
- 目的: 共有する情報を整理し、誰にでも理解できるように明確にするため。
- 具体的な行動:
- 決定した「解決策」の内容を箇条書きなどで簡潔にまとめます。(例: AとBの役割分担を変更し、Cの作業をDがサポートする)
- なぜこの解決策が必要になったのか、その「背景にある問題」を改めて確認します。(例: AとBの業務負荷の偏り、Cの作業の遅延による納期遅れリスク)
- 解決策を決定する過程で、どのような「議論」があり、どのような「選択肢」が検討されたのかを記録します。(例: E案、F案も検討したが、リソースやスケジュールを考慮し、今回のA案が最適と判断した)
- 解決策によって期待される「効果」や「目的」を明確にします。(例: 業務負荷の均等化、納期遅れリスクの解消、チーム内の協力体制強化)
- 解決策の「実行責任者」「期日」「必要なリソース」などを明確にします。
- 注意点: 感情的な表現や特定の個人を非難するような表現は含めません。あくまで客観的な「事実」と「決定事項」に焦点を当てます。
- NG行動: 話し合いのメモをそのまま共有したり、自分の解釈だけで要約したりすること。決定事項があやふやなまま次のステップに進むこと。
ステップ2:誰に、何を、どのように共有するかを計画する
整理した内容を誰に、どのような方法で共有するかを計画します。チーム全体の情報共有が良いのか、個別にフォローが必要なメンバーがいるかなどを考慮します。
- 目的: 共有の対象者や方法を最適化し、誤解なく効率的に情報を伝えるため。
- 具体的な行動:
- 共有対象者を特定します。(例: チーム全体、関連する他部署、今回の衝突に直接関わったメンバー個別など)
- 共有する内容の「粒度」を調整します。(例: チーム全体には決定事項と背景、期待効果を簡潔に。個別には、そのメンバーの役割や関連する懸念事項への対応も含めて詳細に)
- 共有の「方法」を選びます。(例: チーム会議での報告、メール/チャットでの通知、個別面談など)
- 質疑応答の時間を設けるか、質問を受け付ける方法を検討します。
- 注意点: 情報格差が生まれないよう、可能な限り関係者全員が必要な情報を得られるように配慮します。重要な決定事項は、後から確認できるよう文書化して共有することが望ましいです。
- NG行動: 関係者にばらばらに情報を伝えたり、共有方法を事前に決めずに成り行きで伝えたりすること。
ステップ3:決定事項を共有する
計画に基づき、実際にチームや関係者に決定事項を共有します。
- 目的: 決定した解決策の内容、背景、目的などを正確に伝え、チーム全体での理解と認識の一致を図るため。
- 具体的な行動:
- 共有の冒頭で、今回の共有の「目的」を明確に伝えます。「先日〇〇の件で話し合いを行い、解決策が決定しましたので、その内容を共有し、皆さんの理解を得て、実行に移していきたいと考えています。」のように伝えます。
- ステップ1で整理した「決定事項」「背景」「目的」「期待効果」などを論理的に説明します。
- なぜその解決策が最適と判断されたのか、検討された他の選択肢についても簡潔に触れることで、決定の正当性や透明性を高めます。
- 「実行責任者」や「期日」など、具体的な行動に関する情報を明確に伝えます。
- 注意点: 一方的な通知にならないよう、メンバーが集中して聞ける環境を整え、落ち着いたトーンで話します。専門用語や曖昧な表現は避け、平易な言葉で伝えます。
- NG行動: 慌てて簡単に済ませてしまったり、早口で説明したりすること。決定に至るまでの背景や理由の説明を省略すること。
ステップ4:メンバーからの質問や懸念に対応する
共有後、メンバーからの質問や懸念に真摯に対応します。これは、メンバーの理解を深め、納得感を醸成するために非常に重要なステップです。
- 目的: メンバーの疑問や不安を解消し、決定事項への納得度と実行への前向きな姿勢を高めるため。
- 具体的な行動:
- 質問しやすい雰囲気を作ります。「何か不明な点はありますか」「この点についてさらに説明が必要な方はいますか」のように問いかけます。
- メンバーからの質問や懸念を注意深く「傾聴」します。途中で話を遮らず、最後まで聞きます。
- 質問に対して、ステップ1で整理した内容に基づいて、正確かつ丁寧に回答します。もし即答できない場合は、正直に「今はこの場で明確な回答ができませんが、確認して〇日までに必ず回答します」と伝えます。
- 懸念や反対意見が出た場合も、頭ごなしに否定せず、その意見や感情を「受け止める」姿勢を示します。「そう感じられるのですね」「〇〇という点について、ご心配なのですね」のように、まずは相手の状況を理解しようと努める言葉を返します。
- 懸念点に対する解決策や、話し合いの中で既に対応を検討済みである場合は、その内容を丁寧に説明します。
- 注意点: 質問や懸念は、メンバーが決定事項を自分事として捉えようとしている証拠です。感情的にならず、冷静かつ誠実に対応します。個人的な感情や主観に基づいた回答は避けます。
- 会話例(良い例):
- メンバー: 「この新しいやり方だと、かえって作業量が増える気がするのですが…」
- リーダー: 「〇〇さん、作業量が増えるかもしれないとご心配なのですね。ありがとうございます。確かに一時的に慣れない部分は出てくるかもしれません。今回の変更は、全体のバランスを見直した結果、将来的にはチーム全体の生産性向上につながると考えています。具体的な作業手順については、後ほど改めて詳細を共有し、負担が大きいようであれば調整も検討しますので、ご安心ください。」
- 会話例(NG例):
- メンバー: 「この新しいやり方だと、かえって作業量が増える気がするのですが…」
- リーダー: 「そんなことはありませんよ。ちゃんと計算して決めたんですから。まずはやってみてください。」(メンバーの懸念を受け止めず、一方的に否定している)
ステップ5:実行への協力を促し、コミットメントを得る
メンバーの理解と納得がある程度得られたら、決定した解決策の実行への協力を促し、前向きな姿勢を引き出します。
- 目的: メンバーが決定事項を実行するための主体性と責任感を持ち、チーム全体で協力して問題解決に取り組めるようにするため。
- 具体的な行動:
- 解決策の実行が、チームや個人のどのようなメリットにつながるのかを改めて伝えます。(例: 「この変更によって、皆さんの業務負荷の偏りが解消され、より効率的に仕事を進められるようになります」「〇〇さんの強みが活かせる場面が増えるはずです」)
- メンバー一人ひとりに、決定事項の実行における「自分の役割」や「期待されること」を明確に伝えます。
- 「この決定事項の実行に、皆さんで協力して取り組んでいきましょう」「〇〇さんには、この部分で特に力を貸していただけると助かります」のように、前向きな言葉で協力を促します。
- 可能であれば、メンバー自身の言葉で実行への意思を確認したり、小さなコミットメント(例: 「まずは来週中にこの部分を試してみます」)を引き出したりします。
- 注意点: 強制するのではなく、あくまで協力を促す姿勢が大切です。決定事項を実行することの「意義」や「目的」を丁寧に伝え、メンバーが「やりたい」と思えるような動機付けを行います。
- NG行動: 「決定事項なので、やってもらいます」「文句を言わず、指示通りに実行してください」のように、一方的・高圧的な態度をとること。誰が何をするか曖昧なまま、丸投げしてしまうこと。
ステップ6:フォローアップ計画を立てる(必要に応じて)
決定した解決策がスムーズに実行されているかを確認し、必要に応じて調整やサポートを行うためのフォローアップ計画を立てます。
- 目的: 解決策が計画通りに実行されるように後押しし、実行過程で生じる新たな問題に早期に対応するため。
- 具体的な行動:
- いつ、どのような方法で実行状況を確認するかを決めます。(例: 1週間後のチーム会議で進捗確認、個別に声をかける、チャットツールで報告を求めるなど)
- 問題が発生した場合の相談先や、追加で必要なサポート(情報、リソース、相談相手など)を明確にします。
- 必要であれば、解決策の効果測定方法や、一定期間経過後の見直し機会を設定します。
- 注意点: 過度な監視にならないよう、メンバーの主体性を尊重しつつ、必要な時にいつでも相談できる安心感を提供します。
- NG行動: 決定した後のフォローアップを全く行わないこと。問題が発生している兆候を見逃すこと。
具体的なシチュエーション例:納期遅延の原因となっていた業務プロセスの見直し決定を共有する場合
例えば、特定のメンバーAさんの業務プロセスにボトルネックがあり、納期遅延が頻繁に発生していたとします。チームで話し合った結果、Aさんの業務の一部をBさんに移管し、新しいチェック体制を導入するという解決策が決定したとします。
この決定をチームに共有する際、リーダーは以下の点を意識して伝えます。
- 共有の目的: 「皆さんと話し合って決めた、納期遅延を防ぐための新しい業務プロセスについて共有します。この変更によって、チーム全体の生産性を高め、〇〇プロジェクトを成功させることが目的です。」
- 背景と経緯: 「先日、〇〇プロジェクトで納期遅延が発生し、その原因の一つが特定の業務プロセスに集中する負荷にあることが分かりました。この課題を解決するため、チームで話し合い、様々な改善案を検討しました。」
- 決定内容: 「話し合いの結果、Aさんが担当していた〇〇の業務をBさんにも分担してもらい、さらに〇〇の段階で△△さんによるチェックを導入することになりました。これにより、特定の個人への負荷集中を防ぎ、早期に問題を発見できる体制を作ります。」
- 期待効果: 「この変更により、業務負荷が分散され、Aさんの負担が軽減されるだけでなく、Bさんの新しいスキル習得にもつながります。また、チェック体制によって品質が向上し、納期遅延リスクを大幅に低減できると期待しています。」
- 実行と役割: 「この新しいプロセスは来週から開始します。AさんにはBさんへの引き継ぎをお願いします。BさんにはAさんから業務内容を学んでいただき、△△さんにはチェックの実施をお願いします。不明な点があれば、私や経験豊富な〇〇さんに相談してください。」
- 質疑応答: 「この変更について、何か不明な点や懸念はありますか。」
このように、決定事項だけでなく、その背景、目的、期待効果、そして各メンバーの具体的な役割を明確に伝えることで、メンバーはなぜその変更が必要なのかを理解し、自分事として捉えやすくなります。特にAさんやBさん、△△さんには、別途個別にフォローを行い、不安がないか、必要なサポートがあるかを確認することも重要です。
決定事項の共有と実行促進におけるよくある落とし穴と対策
- 落とし穴1: 決定内容が曖昧なまま共有する
- 対策: ステップ1で決定事項を徹底的に整理・言語化する。実行責任者、期日、具体的な行動を明確にする。
- 落とし穴2: 共有方法が適切でない(一方的すぎる、伝達漏れがある)
- 対策: ステップ2で共有対象者と最適な方法を計画する。重要な情報は、口頭だけでなく文書でも共有する。関係者に情報が行き渡っているか確認する。
- 落とし穴3: メンバーからの質問や懸念を軽視する
- 対策: ステップ4を丁寧に行う。どんな小さな質問にも真摯に耳を傾け、丁寧に回答する。懸念には共感を示し、解決策を一緒に検討する姿勢を見せる。
- 落とし穴4: 決定事項の「背景」や「理由」の説明を省略する
- 対策: ステップ3で、決定に至った経緯や、なぜその解決策が選ばれたのかを必ず説明に含める。透明性を意識する。
- 落とし穴5: 実行をメンバー任せにして、フォローアップをしない
- 対策: ステップ6に基づき、定期的に進捗を確認する機会を設ける。メンバーが相談しやすい雰囲気を作る。必要に応じて、追加のサポートを提供する。
まとめ
衝突解決の話し合いでせっかく効果的な解決策が決定しても、それがチーム全体に適切に共有され、実行されなければ意味がありません。初めてチームリーダーになった方にとって、この「決定事項の共有と実行促進」は、チームを動かすための大切なステップです。
今回解説したステップ(決定事項の整理、共有計画、丁寧な伝達、質問・懸念への対応、実行促進、フォローアップ)を意識することで、メンバーの理解と納得感を深め、決定事項をスムーズに実行へつなげることができます。
最初は戸惑うこともあるかもしれませんが、一つひとつのステップを丁寧に進めることが、メンバーからの信頼を得て、チームをより良い方向へ導く力となります。焦らず、着実に実践してみてください。今回の経験は、きっとあなたのリーダーシップをさらに成長させてくれるでしょう。