はじめての衝突解決:攻撃的になったメンバーへの具体的な対応ステップ
チームリーダーの皆様、日々の業務、誠にお疲れ様です。チームを率いる中で、メンバー間の意見の対立や不満に直面することは避けられないかもしれません。中でも、メンバーが感情的になり、攻撃的な言動を見せた場合、どのように対応すれば良いのか、不安を感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。初めてリーダーになられたばかりであれば、なおさらです。
このコラムでは、チーム内で感情的な攻撃が発生した場合に、リーダーが冷静に、そして建設的に対応するための基本的なステップを解説します。感情的な状況に引きずられず、問題解決に向けて一歩ずつ進むための具体的な方法をお伝えします。
なぜ、感情的な攻撃への対応スキルが重要なのか
チーム内の感情的な攻撃は、個々のメンバーだけでなく、チーム全体の士気や信頼関係に深刻な影響を及ぼします。放置すれば、問題はさらに悪化し、解決が困難になる可能性もあります。
リーダーとして、このような状況に適切に対応することは、チームの安全な心理的環境を守り、健全なコミュニケーションを維持するために不可欠です。また、リーダー自身が感情的にならず、冷静に対応する姿勢は、チームメンバーからの信頼を得る上でも重要となります。
感情的な攻撃に直面したとき、「どうしよう」「怖い」と感じるかもしれません。しかし、適切なステップを踏むことで、冷静に対応し、状況を改善に導くことが可能です。
攻撃的になったメンバーへの対応 基本ステップ
ここでは、チーム内で感情的な攻撃が発生した場合にリーダーが取るべき、基本的な対応ステップをご紹介します。状況や関係性によって調整は必要ですが、このステップを応用することで、冷静に対応する助けとなるでしょう。
ステップ1:その場での安全確保と一時的な鎮静化
感情的な攻撃が起きているまさにその場では、まず状況の悪化を防ぎ、関わる全てのメンバーの安全(物理的・精神的)を確保することが最優先です。
- リーダー自身の冷静さを保つ 相手の感情的な言動に引きずられそうになるかもしれませんが、まずは深呼吸するなどして、ご自身の感情の波を落ち着かせます。リーダーが冷静さを失うと、状況はさらに混迷します。
- 場の雰囲気への配慮 他のメンバーが見ている前であれば、その場での詳細な話し合いは避け、一時的に中断することを検討します。感情的なやり取りを他のメンバーに見せることは、チームの雰囲気を悪化させ、不安を招く可能性があります。
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一時的な中断や場所移動の提案 感情が昂ぶっている状況で建設的な話し合いは困難です。「一旦落ち着きましょう」「場所を移して話しましょうか」などと提案し、状況をリセットします。
- NGな対応例:
- 感情的に言い返す。「あなただっていつもそうじゃないですか!」
- その場で相手を問い詰める。「どういうつもりだ!」「なぜそんなことを言うんだ!」
- 相手の攻撃的な言動を無視したり、馬鹿にしたりする態度を取る。
- 望ましい対応例:
- 落ち着いた声で、「まずは少し落ち着きましょうか」と提案する。
- 「一度、別の場所で話を伺っても良いですか」と、冷静な対話の場を提案する。
- 他のメンバーに配慮が必要な場合は、「この話は、改めて時間を取りましょうか」と、後日改めて話すことを示唆する。
- NGな対応例:
ステップ2:後日、個別での対話を設定する
その場で一時的に状況を落ち着かせたら、改めて攻撃的な言動があったメンバーと個別で話し合う機会を設けます。
- なぜ個別か 一対一で話すことで、相手は他人の目を気にすることなく、より本音を話しやすくなります。また、リーダーとしても、相手の感情に寄り添い、じっくりと話を聞く環境を作ることができます。
- アポイントの取り方 感情的な出来事から少し時間を置き、相手が落ち着いた頃を見計らって声をかけます。しかし、あまり時間を置きすぎると、問題がうやむやになったり、相手が「無視された」と感じたりする可能性もあります。数時間後や翌日など、適切なタイミングを選びます。
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対話の目的を伝える 改めて話す機会を設ける際に、「なぜ話したいのか」を具体的に伝えます。ただし、相手を責めるような言い方ではなく、あくまで「今回の出来事について、あなたの話をしっかり聞かせてほしい」「何があったのか、背景を理解したい」といった、理解を深めるための対話である姿勢を示します。
- NGな声かけ例:
- 「さっきの件で、なぜあんな言い方をしたのか聞かせてもらう」
- 「怒っている理由を説明しなさい」
- 望ましい声かけ例:
- 「先ほどは感情的になってしまいましたが、落ち着いて、少しお話できますか。あなたの状況や、何が原因だったのか、詳しく聞かせていただきたいんです。」
- 「〇〇さん、改めてお話ししたいのですが、少しお時間いただけますか。今日の件について、あなたの考えや気持ちを理解したくて。」
- NGな声かけ例:
ステップ3:対話で本音と背景を聞き出す
個別対話の場では、何よりもまず相手の話を「聴く」ことに徹します。攻撃的な言動の裏には、必ず何らかの理由や感情が隠されています。それを引き出すことが、問題解決の第一歩です。
- 傾聴の姿勢を徹底する 相手の話を遮らず、最後まで耳を傾けます。相槌を打ったり、「〇〇ということですね」と相手の言葉を繰り返したりすることで、真剣に聞いている姿勢を示します。
- 事実と感情を切り分ける 相手の話の中から、「何が実際に起こったのか(事実)」と「それに対してどう感じたのか(感情)」を分けて理解しようと努めます。攻撃的な言動は、事実に基づいた不満や不安、あるいは誤解から生じていることが多いです。
- 共感を示す(ただし同調ではない) 相手の感情に寄り添い、「そう感じられたのですね」「それは辛かったでしょう」といった共感を示す言葉を伝えます。ただし、これは相手の攻撃的な言動そのものに同意したり、正当化したりするものではありません。感情を受け止めることと、言動の是非を判断することは別です。
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攻撃的な言動の「原因」を探る 「なぜ」そのように感じ、そのような言動に至ったのか、その背景にある原因(業務上の課題、人間関係の悩み、個人的なストレスなど)を、穏やかな口調で尋ねていきます。「具体的に、どのような状況で、どのように感じましたか?」「何か他に気になることはありますか?」など、具体的な質問を投げかけます。
- NGな対話例:
- 相手の話の途中で「いや、でもそれはあなたが〇〇したからだ」と反論する。
- 「そんなことで怒るなんておかしい」と相手の感情を否定する。
- 「あなたの言ってることは間違っている」と頭ごなしに否定する。
- リーダー自身の不満や感情をぶつける。
- 望ましい対話例:
- 相槌を打ちながら真剣に耳を傾け、「うんうん」と聞く姿勢を示す。
- 「〇〇ということですね。それは大変でしたね」と相手の言葉を繰り返したり、共感を示したりする。
- 「その時、他に何か気になったことはありましたか?」と、背景を探る質問をする。
- 「あなたの話を伺って、〇〇な状況だったことが理解できました。その上で、少しお話ししたい点があります。」と、次にリーダーの視点を伝える前置きをする。
- NGな対話例:
ステップ4:共通の理解と建設的な解決策の検討
相手の本音や背景を理解した上で、今回の出来事をどう受け止め、今後どう改善していくかについて話し合います。
- 問題点の整理と共有 攻撃的な言動そのものではなく、その根底にあった問題(業務プロセス、コミュニケーション不足、特定の人間関係など)を明確にし、お互いの認識にずれがないか確認します。「つまり、〇〇な状況があって、それに対して△△だと感じられた、ということですね」のように、共通の理解を確認します。
- 建設的な解決策を共に考える 問題が明確になったら、今後同じような状況を防ぐために、どうすれば良いかを一緒に考えます。リーダーが一方的に指示するのではなく、「次に同じようなことが起きたら、どうしたら良いと思いますか?」「私にできることはありますか?」など、相手にも解決策の提案を促します。
- 再発防止に向けた約束事 話し合いで合意した解決策や、今後のコミュニケーションにおける注意点などを明確にし、お互いに約束します。例えば、「不満がある時は、感情的になる前に、まずリーダーに相談する」「〇〇な状況になったら、まずは落ち着いて状況を確認する」など、具体的な行動レベルで確認します。同時に、リーダーとして改善すべき点があれば、それを伝え、実行を約束します。
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関係性の修復 今回の出来事によって生じた感情的なしこりがあれば、それについても触れ、関係性を修復するための言葉を交わします。「先ほどの件で、他のメンバーも不安に感じたようです。改めて皆に一言伝えてもらえませんか?」「私も至らない点があったかもしれません。今後も協力してやっていきたいと考えています。」など、状況に応じて適切な言葉を選びます。
- NGな解決策の検討例:
- 相手に一方的に謝罪を要求し、それで終わりにしようとする。
- リーダーが全てを決定し、「こうしなさい」と指示するだけ。
- 問題の根本原因に触れず、表面的な対応で済ませる。
- 今回の出来事自体に全く触れず、うやむやにする。
- 望ましい解決策の検討例:
- 「今回の件の根本原因は〇〇だったと考えていますが、〇〇さんはどう思いますか?」と、問題認識を共有する。
- 「今後、同じような状況を防ぐために、何か良いアイデアはありますか?」と、相手からの提案を促す。
- 「今回の件を通じて、お互いに学んだことを今後に活かしていきましょう。協力して、より良いチームにしていきたいです。」と、未来に向けた前向きな言葉を添える。
- NGな解決策の検討例:
リーダーが陥りがちな落とし穴と対策
感情的な攻撃に対応する際に、リーダーが陥りやすい失敗とその対策を知っておくことも重要です。
- 落とし穴1:リーダー自身が感情的になる
相手の攻撃的な態度に触発され、こちらも感情的に言い返してしまう。
- 対策: ステップ1のように、まずはご自身の感情をコントロールすることを意識する。深呼吸する、すぐに応答せず数秒間待つ、など物理的に間を置くことも有効です。
- 落とし穴2:問題を個人的な攻撃と受け止める
「自分を否定された」「リーダー失格だと思われた」などと個人的な攻撃だと感じてしまい、冷静な判断ができなくなる。
- 対策: 感情的な攻撃は、多くの場合、その人の置かれている状況や抱える不満から生じるものです。リーダー個人への評価ではなく、その人の抱える問題の表出である可能性が高いと捉え、「問題」そのものに焦点を当てるようにします。
- 落とし穴3:他のメンバーの前で叱責する
攻撃的な言動を抑え込むために、その場で他のメンバーが見ている中で厳しく叱責する。
- 対策: これは相手のメンツを潰し、関係性をさらに悪化させる可能性が高いです。また、他のメンバーにも恐怖感を与えかねません。注意が必要な場合でも、必ず個別で、冷静に伝えるようにします。
- 落とし穴4:原因を追究せず、表面的な謝罪で終わらせる
相手が一時的に落ち着いたり、謝罪したりしたことで、問題の根本原因に踏み込まずに終わらせてしまう。
- 対策: 表面的な解決では、同じ問題が再発する可能性が高いです。一時的な感情の鎮静化だけでなく、必ずステップ3、4のように、時間を取ってじっくりと話を聞き、原因を探り、再発防止策まで話し合うことが重要です。
まとめ:成長への一歩として
チーム内で感情的な攻撃が発生することは、リーダーにとって非常に心理的な負担の大きい出来事です。しかし、これを避けるのではなく、適切に対応することで、メンバーとの信頼関係を深め、チームをより強くする機会に変えることができます。
ご紹介したステップは、あくまで基本的な流れです。状況に応じて柔軟に対応し、ご自身の言葉で、真摯にメンバーと向き合うことが大切です。
初めてのリーダーとして、このような困難な状況に対応することは、大きな成長の機会となります。完璧を目指す必要はありません。まずは一歩ずつ、冷静に、そして根気強く、メンバーと向き合ってみてください。応援しています。